#12 OODA ループで 「狙撃王」 のような状況判断と意思決定を!
こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。
今回のレターで取り上げるのは OODA (ウーダ) ループです。
OODA ループのビジネスでの活用方法です。OODA ループは、問題設定と問題解決プロセスのフレームに使えるんです。
ぜひレターを最後まで読んでみて、よければ感想も教えてもらえるとうれしいです。もしよかったら Twitter などでシェアしてみてください!
OODA ループとは
では OODA ループについて見ていきましょう。
OODA ループは、意思決定の意思決定と実行のプロセスです。OODA は4つの頭文字からです。

引用: Team Hackers
OODA ループ
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Observe (観察) : 情報を収集する
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Orient (状況判断) : 収集した情報を解釈し、何を意味するのかを考える
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Decide (意思決定) : 状況判断から決断をする
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Act (行動) : 行動に移す
アメリカ空軍の 「撃墜王」 についての研究

OODA ループでおもしろいと思った話を紹介しますね。
以前に読んで興味深かったのは、書籍 「ユニ・チャーム SAPS 経営の原点 - 創業者高原慶一朗の経営哲学」 で紹介されていたアメリカ空軍の研究です。
空軍の空中戦では、いかなる状況でも必ず敵機を撃ち落とす 「狙撃王」 と呼ばれるようなパイロットが現れます。アメリカ空軍の研究目的は、空中戦での 「狙撃王」 と 「他の一般的なパイロット」 の違いを理解し、空軍の戦力向上に活かすことでした。
パイロットが敵機を見つけ、攻撃または回避行動をするプロセスで、優秀なパイロットとそうではないパイロットとの比較研究から3つのことがわかりました。ここに OODA の4つが入っています。
アメリカ空軍の研究結果
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敵機の観察段階 (Observe) で統計的に有意な差はない
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状況判断 (Orient) と意思決定 (Decide) の速さに有意な差がある
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行動 (Act) では有意差はない
OODA ループの2つ目と3つ目の 「状況判断」 と 「意思決定」 で、パイロットの優秀さが決まるという研究結果です。
本書では以下のように書かれています。
適切な情報や戦術 (観察、状況判断、意思決定) を欠いた作戦行動はほとんど無意味であり、この OODA ループのサイクルをきちんと回し続けることが勝利の条件となっていました。
さらに素早い作戦行動 (状況判断と意思決定) により戦況を変化させ、敵がその状況に対応する前に次の行動を起こすことで、敵に 「対応するいとまを与えない」 ことが、勝利を約束するというのです。
OODA ループと問題解決

ご紹介した OODA ループは、問題解決のプロセスと同じなんです。
問題設定から解決策の実行までのそれぞれで、OODA ループの4つを意識しながら進めるといいです。
では OODA ループに沿って問題解決のステップを見てみましょう。
[ステップ 1] Observe 観察
まずは問題が起こった現状を把握します。
どこに問題があるかという、これから掘り下げるべき特定の箇所の見極めです。切り口から現状を分解し、問題の原因がこの先にありそうだという領域を特定します。
[ステップ 2] Orient 状況判断
2つ目の状況判断でやるのは 「問題の本質の見極め」 と 「問題解決のための課題設定」 です。
先ほどの Observed で特定した原因追究の箇所を掘り下げます。Why を繰り返し、問題の真因に迫ります。
問題の本質を見極めたら、問題解決のための課題を設定します。問題と課題の分離が大事です。
問題と課題の違い
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問題: 「現状」 が 「あるべき姿」 になっていない阻害要因
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課題: 問題 (あるべき姿を妨げている要因) を解決するためにやること
課題とは問題解決のために取り組む活動です。
この意味において、問題解決という言葉はありますが、課題解決は本来の言葉としては適切ではありません。課題というアクションをやることによって問題を解決します。
[ステップ 3] Decide 意思決定
設定した課題からより具体的な実行策を考え、自分たちが何をやるのか、そして何をやらないのかを決めます。
実行策は 「何を・誰が・いつまでに」 に落とし込み、各自の役割と責任を明確にします。
[ステップ 4] Act 実行
現場での実行を進めます。
ここで大事なのは実行を現場に投げ放しやって終わりではなく、フォローの仕組みもつくります。
フォローから実行内容の振り返りと検証をして、次の2回目の OODA ループに入るようにします。実行プロセスと結果の観察です。
問題設定から解決へのプロセスを OODA ループに当てはめて見てきました。
もう少し掘り下げて、実際のビジネスのシーンで OODA ループをご紹介します。
コンサルティングの事例

私が関わった BtoB ビジネスへのコンサルティングです。いくつかの案件をミックスしてご説明します。
では OODA の4つで順番にご紹介しますね。
[ステップ 1] Observe 観察
起こっていた事象は既存事業の伸び悩みでした。数字を見ると売上の鈍化です。
いくつかの切り口で分解したところ、特定の領域で他よりも売上が減少していました。具体的には、顧客セグメントで5つに分けた時にセグメント B と C で案件単価が前年よりも低下していました。
また、顧客セグメント D ではリピート率が他のセグメントよりも明らかに低くなっていました。
以上の観察から、原因の追求のために掘り下げるべき箇所をセグメント B, C, D としました。
[ステップ 2] Orient 状況判断
数字の分析と営業担当者へのヒアリングも重ねると奥にある要因が見えてきました。
顧客セグメント B と C の単価減少の原因は新たな競合の出現です。受注数を取るために利幅を削ってでも提案をしていました。
セグメント D のリピート率の低下要因は、顧客からの期待と提供した成果物の品質にギャップがあったからです。提案時に成果物への過大評価につながる説明を顧客にしていました。
以上を問題として、解決のための課題設定は次のようにしました。
既存事業を成長させる課題
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うまくいっている顧客セグメント A と E に人員リソースをシフトして攻める
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B と C は受注ではなく1件あたり利益額を追うべき指標として利益率を改善する
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D は営業と商品開発側で情報のすり合わせを行う。提供価値を正しく伝える営業方針に変更し顧客からの期待値をコントロールする
詳細に入った内容になってきたので、ここまでの 「観察」 と 「状況判断」 を一度まとめますね。

観察と状況判断のまとめ (コンサルティング事例)
[ステップ 3] Decide 意思決定
意思決定として、5つの顧客セグメントのそれぞれで KPI を明確にしました。
KPI 設定
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顧客セグメント A と E は新規商談数。新しい顧客開拓をする
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B と C は1件あたりの利益額
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D はリピート率
また、実行をやり抜くことを徹底するために 「どの案件を」 「誰が」 「いつまでに」 を明確にしました。併せて、各顧客への提案の進捗状況を次のように可視化しました。
進捗状況の可視化 (5つのステージ)
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商談へのアポ開始
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顧客課題の理解、課題に沿った提案
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先方での提案評価・検討中
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稟議
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受注
[ステップ 4] Act 実行
週次で各セグメントごとに全顧客の進捗を可視化と共有しました。
現場の営業担当者に任せ放しではなくフォロー体制もつくりました。
もう1つ私が提案したのは組織知を高める仕組みです。顧客課題の理解や成功・失敗要因の知見の共有です。具体的には、顧客へのコミュニケーションや顧客課題の理解 (掘り下げる方法も含め) 、提案での成功要因と失敗要因 (進捗の途中で失注した理由) を、組織内で積極的に発信し合いました。
各メンバーが自分自身の進め方の振り返りにもなり、他者の経験から学びを得られる機会を増やしました。1人ひとりの中で OODA ループをまわす狙いもあります。
以上から全体をまとめると、次のようになります。

OODA でのまとめ (コンサルティング事例)
OODA ループと PDCA サイクル

PDCA はよくご存知かと思います。
Plan, Do, Check, Action の4つの頭文字からです (個人的には最後の A は Action よりも 「適応する」 を意味する Adjust のほうがしっくりきます) 。
計画を立て (Plan) 、実行し (Do) 、実行内容と結果を検証し (Check) 、次の実行にまわします (Action) 。
ここでは今回のレターで取り上げた OODA ループと、PDCA の関係を掘り下げてみましょう。
一見すると PDCA と OODA ループは似ているように見えるかもしれませんが、2つをより解像度高く見ると似て非なるものです。
ところで私が時々見たり耳にすることで、「PDCA は古い。これからは OODA ループだ」 があります。本当にそうなのでしょうか?
私の考えは OODA ループが PDCA を代替したり置き換えるのではなく、PDCA を回すために OODA ループを取り入れると良いです。
つまり、PDCA と OODA ループは補完関係にあり、うまく使えば相乗効果を期待できます。
ではまずは、あらためて PDCA のポイントを見ていきましょう。
PDCA で大事なこと
PDCA サイクルがうまく回らないパターンは、次の通りです。
PDCA で陥りがちなこと
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計画なき実行
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計画を作って終わってしまう。実行までに時間がかかりすぎる
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実行をやりっ放し。振り返りをせず教訓を得ない。次に生かされない
それぞれを補足しますね。
1つ目のパターンは、計画や戦略・仮説がない中での実行です。絨毯爆撃での実行になるので、下手な鉄砲を数多く撃ち当てるしかありません。
2つ目のパターンは、計画を作って実行されない、あるいは計画を作るのに時間をかけすぎてしまう状況です。
3つ目のパターンは実行をやりっ放しにすることです。PDCA の後半である、振り返りから学びと教訓を得て、次に活かすというサイクルにつながりません。
PDCA と OODA の相乗効果

では、先ほど書いた 「PDCA と OODA ループは補完関係にあり、うまく使えば相乗効果を期待できる」 についてです。
PDCA を効果的に回すために OODA ループをどのように活用すればいいのでしょうか?
一言で言えば、PDCA を1回まわす間に、OODA ループを2回まわします。
具体的には、P と D で1回目の OODA 、C と A で2回目の OODA です。これを図で表すと、次のようになります。

PDCA と OODA の相乗効果
PDCA と OODA ループの相乗効果
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PD で OODA を1回まわす
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CA でもう一度 OODA ループを回す
それぞれについてもう少し補足しますね。
[相乗効果 1] PD と OODA
プラン (戦略や仮説) をつくるときに OODA ループを回します。
観察から意味合いを解釈し大きな方向性を判断し、実行への意思決定をします (PDCA の D) 。
[相乗効果 2] CA と OODA
PDCA のチェック (振り返り, 検証, 評価) においても、観察から解釈・方向性判断、意思決定をして次につなげます (PDCA の A) 。意思決定は次の PDCA で何をするかです。
チェックから次に実行するために、2回目の OODA を回します。
OODA ループのポイント

ここで話を OODA ループの単体に戻しますね。
OODA ループのポイントは、状況判断 (Orient) と意思決定 (Decide) にあります。事実の解釈から大きな方向性の判断と、実行のための意思決定です。これはご紹介したアメリカ空軍の研究でも指摘されています。
重要なのは、意思決定をする前に一度大きな方向性を判断しておくことです。
意思決定にもポイントがあります。意思決定は、後戻り可能である類のものと不可逆的なものの二種類あります。前者は迅速に、後者は慎重に決断して実行に移します。
これから意思決定をしようとしていることが、後戻りができるのかどうかの見極めをまずやり、二種類のどちらかによって意思決定のタイミングを変えます。
後戻りができるものは早く決めて、実行に移します。
今日のアクション
そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。
ご紹介したのは意思決定と実行のフレーム 「OODA ループ」 でした。OODA ループのビジネスでの活用例、後半では OODA と PDCA の相乗効果も見てきました。
このレターで最後に読者のあなたにお伝えしたいことは、「自分が観察したことの意味合いを見出そう」 です。そして 「見極めた本質を行動につなげよう」 です。
OODA も PDCA も突き詰めると行動のためのツールです。あくまで手段なんですよね。
ぜひ半歩でもいいので一歩を踏み出す行動と、行動の質を高めるための道具として OODA のやり方を参考にしてみてください!
いただいた質問への回答
質問箱にいただいた質問に回答するコーナーです。今回は4つです。
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ポケモンのハマり方の違い・人のタイプ
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マーケティングを恋愛に例えるなら?
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1月に読んだ本は?
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子どもの時の一番幸せな思い出は?
[質問 1] ポケモンのハマり方の違い・人のタイプ

前回のレターに読者の方からコメントをいただきました。
最初の質問 「人生はスーパーマリオのようなフレーズをポケモンにもあれば」 への答えは、「ポケモンは水晶玉」 です。
回答では、
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「ポケモンは水晶玉」 の意味
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ポケモンのハマり方
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人を見分ける4タイプ
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マーケティングへの応用
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経営戦略へ横展開
を書きました (詳細はこちらです) 。
[質問 2] マーケティングを恋愛に例えるなら?

マーケティングで大切なこと、活動プロセスを恋愛に例えてみました。
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理想は両想いの関係
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マーケターは仲人
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マーケティング活動とデート
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恋人関係が続く秘訣
詳しくはこちらで回答をしています。よかったらぜひ読んでみてください。
[質問 3] 1月に読んだ本は?

1月に読んだ本から、特に学びが多かった3冊です。
詳細の回答はこちらです。
[質問 4] 子どもの時の一番幸せな思い出は?

子ども時代の一番の幸せな思い出は、小学生のアメリカにいた時の家族体験です。
回答では、
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アメリカに住んでいた背景
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毎日の家族での楽しい時間
-
なぜ幸せに感じたのか (あらためての振り返り)
をご紹介しています (こちら) 。
質問・リクエストを募集しています
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疑問に思ったこと
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訊いてみたいこと
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自分なりの理解や解釈
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レターへのリクエスト
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レター作成者
多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら)
経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。
主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください
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