#44 イノベーションを解説。50年もロングセラーであり続けたカップヌードルというイノベーション

[レター概要] 1971年に生まれたカップヌードルの開発秘話から、イノベーションの本質を掘り下げています。イノベーションとは 「未来の当たり前」 をつくることです。ぜひ読んでみてください!
多田 翼 2021.09.23
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こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

今年2021年は、カップヌードルが誕生して50周年です。今回はインスタントラーメン (チキンラーメン) やカップヌードルを生み出した安藤百福を取り上げ、イノベーションという視点で見ていきましょう。

不屈の起業家・安藤百福

家庭で調理するインスタントラーメンは、現在は当たり前のようにどの家庭にもありますよね。しかしチキンラーメンというインスタントラーメンが世に出た1958年当時は、ラーメンは今ほど気軽に食べられる時代ではありませんでした。

無一文から再起し、世界初の即席めん 「チキンラーメン」 、世界初のカップめん 「カップヌードル」 を生み出したのが、日清食品創業者の安藤百福です。安藤はインスタントラーメンの父とも呼ばれています。

安藤百福は、今でいうベンチャー起業家でした。チキンラーメンが発売された1958年で、当時の安藤は48歳。それまでの半生において安藤は様々な事業を展開します。繊維会社の設立に始まり、光学機器や精密機械の製造事業、軍用部品工場、製塩事業などです。

安藤の波乱万丈な人生に驚かされます。後にチキンラーメンとなるインスタントラーメンの開発に着手した当時、安藤は無一文という状況でした。安藤が理事長をやっていた信用組合が倒産してしまったからです。自分の資産は自宅だけでした。その状況にもかかわらず、安藤はこれまで全く手がけたことがないラーメン開発に着手したのです。

焼け野原で見たニーズ

安藤百福には、誰でも簡単に調理できるインスタントラーメンへのニーズが見えていました。

安藤は、太平洋戦争の敗戦直後に焼け野原での闇市で、ある光景を目にします。屋台のラーメンに人々がつくる行列でした。1杯のラーメンを食べるために 20 ~ 30m ほどの長い行列ができていました。

並んでいる人は粗末な衣服しか身に着けておらず、寒さに震えながらラーメンを待っていました。安藤には、敗戦直後の人々の貧しい状況でもラーメンへのニーズが強く印象に残りました。

安藤は自宅裏庭に粗末な小屋を建て、インスタントラーメンの開発に取り組み始めます。「お湯をかけるだけで食べられる簡便性を持ち、工業化され大量生産できる製品」 というイメージが安藤の頭の中にはありました。

天ぷらをヒントに

麺については全くの素人だった安藤は、全くの手探り状態です。朝5時から夜中の1時、2時まで研究に没頭する生活を1日も休まず丸1年間続けました。作っては捨て、捨てては作るという気が遠くなる作業です。

安藤はある日、夫人が揚げる天ぷらを見てひらめきます。

 「これだ。天ぷらの原理を応用すればいいのだ」 。興奮した安藤は何度も、麺を1本、2本と油の中に放り込み、パチパチとはじけて浮かび上がる様子を飽きもせず眺めていたそうです。ちなみにこの時に編み出した 「瞬間油熱乾燥法」 は、インスタントラーメンの基本的な製法特許となりました。

ラーメン開発の五原則

興味深いと思ったのは、インスタントラーメン開発のための5つの原則でした。

ラーメン開発の五原則

  • おいしくて飽きがこない味にする

  • 家庭の台所に常備されるような保存性の高いものにする

  • 調理に手間がかからない簡便な食品にする

  • 値段が安いこと

  • 人の口に入るものだから安全で衛生的でなければならない


どの項目も現代でも通じるものですよね。

チキンラーメンの2つの強み

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続きは、3517文字あります。
  • 常識を捨て生まれたカップヌードル
  • 安藤百福の信念
  • イノベーションは 「未来の当たり前」 をつくること
  • ラーメンの 「未来の当たり前」 
  • 世界が安藤百福に送った賛辞
  • 今週のおすすめ本
  • レター作成者

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