#22 顧客を絞るのはなぜ?コロコロコミックとうんこ漢字ドリルに学ぶ顧客戦略と価値提供
こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。
今回はマーケティングです。テーマは 「ターゲット顧客」 と 「提供価値」 です。
書いている内容は、
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ターゲット顧客を絞る3つの理由
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コロコロコミックの 「うんこ・ちんちん原理主義」
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あえて読者層を広げない理由
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「うんこ漢字ドリル」 に学ぶ提供価値のつくり方
マーケティングで最初にやることは、自分たちの顧客は誰かを見極めることです。今回のレターでは、顧客をなぜ絞るのか、顧客への価値提供のつくり方を具体的な事例から見ていきます。
「コロコロコミック」 と 「うんこ漢字ドリル」 です。ぜひ最後まで楽しみながら読んでみてください。
※ 最後にアンケート (1問) があるのでよかったら回答をお願いします!
なぜ顧客を絞る?

マーケティングでよく言われることに、「ターゲットを絞る」 があります。
私は、これは当たり前のように受け入れていましたが、そもそもなぜ顧客を絞るのでしょうか?
ターゲット顧客を絞る理由
お客さんを絞ってターゲット顧客を設定する理由は次の3つです。
ターゲット顧客を絞る理由
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リソースを集中するため
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ニーズや顧客インサイトに応えるため
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競合を増やしすぎないため
3つは何か具体的な話で見ていくとイメージがわくと思います。そこで、小学生向けのコロコロコミックから、ターゲット顧客 (読者) について掘り下げてみましょう。
コロコロコミックの読者
取り上げたいのは、IT media に 「コロコロコミック」 の編集長へのインタビュー記事です (2017年6月28日) 。
インタビュー記事は、ターゲット顧客を絞る3つの理由がよく当てはまる内容でした。
記事の冒頭で、「うんこ・ちんちん原理主義で小学生の男子に喜んでもらっている」 という話が出てきます。
以下はインタビュー記事からの引用で、ITmedia ビジネスオンラインの土肥記者と和田編集長とのやりとりです。
土肥:『コロコロ』の読者ターゲットは、小学4 ~ 6年生の男子なんですよね。この層は150万人ほどいるのに対し、雑誌の発行部数は80万部。つまり、2人に1人は読んでいる計算になるのですが、どういったところにチカラを入れているのでしょうか?
和田: 小学4 ~ 6年生の男の子は、女の子と比べて成長が遅いですよね。女の子は恋愛やオシャレなどに興味があるのに、男の子は漫画に 「うんこ」 や 「ちんちん」 が登場すると、ものすごく喜ぶ。時代が変わってもこうした傾向は同じで、編集部ではこのことを 「うんこ・ちんちん原理主義」 と呼んでいます。
(中略)
土肥: なぜ小学生の男の子はこの2つが好きなのでしょうか?
和田: 学校に行くと、勉強が大変ですよね。塾に行くと、たくさんの宿題が出ますよね。このほかにも、子どもたちは友人関係や親子関係などで窮屈だなあと感じているのかもしれません。
そうした気持ちをどのようにしたらやわらげることができるのか。どのようにしたら開放的な気分にさせることができるのか。そのひとつに 「うんことちんちん」 があるのではないでしょうか。もちろん、漫画には感動的なシーンがあったり、戦うシーンなどがあったりしますが、うんこ・ちんちんを描くことで子どもたちは前向きになれると思うんですよね。
インタビューで印象的だったのは、想定読者 (小学4~6年生の男の子) に対して自分たちは何を提供しているかを、読者の目線で、読者の言葉で語られていることです。
あえて上の年代に読者層を広げない
コロコロコミックの考え方で興味深いと思ったのは、読者層を絞り込んでいることです。あえて読者の平均年齢を上げないようにしています。
ターゲットとなる主な読者層を男子小学生に設定し、無理にその上の年代 (中学生や高校生) を狙わないという考え方です。
再びインタビュー記事からの引用です。
和田: 先ほどもご紹介したとおり、男の子はうんこやちんちんを楽しんでいる。なぜ楽しめるかというと、思春期に突入していないから。つまり、自我に目覚める前の段階で雑誌を読んでいる。
ただ、大人びた男の子は、恋愛やオシャレ、音楽などに興味を示し始めます。例えば、女の子に興味をもつと、『コロコロ』に掲載されている漫画を幼稚に感じるんですよね。
前月まで何度も繰り返して読んでいたはずなのに、今月は手にも取らない。昨日まで雑誌の中で夢を見ていたのに、急に目覚めてしまうような感覚ではないでしょうか。
(中略)
ほとんどの男の子が離れます。そして中学生や高校生になると、『コロコロ』は最も遠い存在になるのではないでしょうか。
コロコロコミックがターゲット顧客を絞る理由

では、ここまで見てきたコロコロコミックの話を、このレターの最初にご紹介した 「ターゲット顧客を絞る3つの理由」 に当てはめてみます。
もう一度理由を書いておくと、
ターゲット顧客を絞る理由 (再掲)
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リソースを集中するため
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ニーズや顧客インサイトに応えるため
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競合を増やしすぎないため
では順番に見ていきましょう。
[理由 1] リソースを集中するため
コロコロコミックのターゲット顧客 (読者) は小学4年 ~ 6年生です。
もし読者をさらに上の年代である中学生や高校生にまで広げてしまうと、中学生以上も楽しめる連載漫画が必要になります。
そのためには新しい漫画を見つけ出し、全体の編集にも影響が出ます。やることが増えるとリソース (人や予算) を集中できなくなり、結果として1つ1つの連載漫画のクオリティが下がってしまいます。
[理由 2] ニーズや顧客インサイトに応えるため

小学生と、中学生や高校生が漫画に求めることは違います。
コロコロコミックが原理主義とまで言っている 「うんこ」 や 「ちんちん」 に反応し、おもしろいと思い、そこからの解放感や前向きな気持ちになれるのは、思春期に入る前の男の子です。一方の中学生以上にとっては幼稚に見えてしまいます。
もし両方のニーズやインサイト、つまり小学生にも中学生にもおもしろい要素を無理やり入れるとどうなるでしょうか?
小学生と中学生のどちらにもおもしろさが欠ける中途半端な存在になってしまいます。帯に短し襷に長しです。
だからコロコロコミックは意図的に上の年代に読者層を広げず、小学生だけにターゲット読者を絞っているのです。
[理由 3] 競合を増やしすぎないため
中学生以降になると興味関心の領域が、それまでの小学生の時と比べて広がります。
勉強も受験のことが気になり始め、友人関係も広がります。恋愛も興味や悩みの種になります。他には本格的に部活動に打ち込む生徒もいます。スマホでもネットの世界に日常的に関わるようになります。
この状況をマーケティングの文脈で捉えると、限られた可処分時間の中で争う相手 (競合) が増えます。
こうした環境下でコロコロコミックにしかない魅力を中学生にも提供をし続けることは、小学生相手とは違った競合プレイヤーと争うことになってしまいます。
以上が顧客を絞ってターゲット顧客をつくる理由です。
ではどうすれば、顧客への提供価値をつくっていけるのでしょうか?
同じく小学生向けの商品である、「うんこ漢字ドリル」 から提供価値のつくり方を見ていきましょう。
「うんこ漢字ドリル」 が生まれたきっかけ
みなさんは、うんこ漢字ドリル はご存知ですか?

こんなインタビュー記事を読みました。

引用: クリエイターズステーション
ヒット商品の 「うんこ漢字ドリル」 が開発されたプロセスが、今回のレター内容につながります。
以下は、記事からの引用です。
谷さん: 企画が動き始めたのは2015年3月です。社長の山本から 「うんこ川柳」 というものを見せてもらって。
文字通りうんこを題材にした川柳で、「うんこ漢字ドリル」 の例文作者である古屋雄作さんが書いたものです。「こんな感じで、うんこを題材にした漢字ドリルを作りたいんだよね」 と言われました。
谷さん: 低学年の子にはウケるかもしれないけど、高学年の子や女の子は大丈夫なんだろうか?という懸念は正直ありました。でも、試しに作ってもらった例文がとにかく面白くて、そのうちにアカデミックな匂いさえも感じるようになりました (笑) 。
もちろん事前に入念なリサーチも行いました。学習塾に通うお子さんたちや小学校の先生にご協力いただき、例文を見せて感想を聞いてみたのですが、予想以上に良好な反応だったんです。学校の先生にはさすがに怒られるかも……と思いましたが、「面白いですね!」 と言ってくださって。それで本格的に動き始めました。
提供価値のつくり方
引用したのはインタビューの一部ですが、この箇所だけでもマーケティングの視点で学びは多かったです。
私が考えさせられたのは提供価値のつくり方で、次の3つです。
提供価値のつくり方 (マーケティングへの学び)
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プロダクトアウトとマーケットインの両立
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早めのアイデア検証
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答えはお客の中にある
では順番にそれぞれについてご説明しますね。
[価値提供 1] プロダクトアウトとマーケットインの両立

うんこ漢字ドリルの企画アイデアは社長の一声からでした。
うんこ川柳を見せられ 「こんな感じで、うんこを題材にした漢字ドリルを作りたいんだよね」 と。ちなみにうんこ川柳とは 「うんこぶりぶり漏らします」 のようなものです。中央に擬音語・擬態語が入っているのがポイントとのことです。
ビジネスアイデアがまずは自分たちから始まっているのは、マーケティングで言う 「プロダクトアウト」 です。自分たちのつくりたいこと (プロダクト) が基点です。
ただしプロダクトアウトだけではなく、マーケットインのアプローチも入っていました。
具体的には、利用者である小学生や先生に見てもらい、受け入れられるかどうかを検証しています。自分たちの独りよがりではなく、マーケットというユーザー基点です。
プロダクトアウトとマーケットインの両方が入っているのが興味深かったです。
[価値提供 2] 早めのアイデア検証
価値提供への2つ目のポイントは、商品アイデアを早めに検証したことです。
うんこ漢字ドリルのアイデアに、当初は不安や懸念がありました。女の子は大丈夫なのか、高学年の子どもたちにもウケるかです。
アイデアを完璧なものにする前に、むしろ不安が大きい時点で想定するドリルの利用者 (子どもや先生) にアイデアをぶつけて反応を見ました。ユーザーからのフィードバックは良好で、この瞬間にアイデアへの不安は確信に変わったわけです。
[価値提供 3] 答えはお客の中にある

自分たちのビジネスアイデアは、結局のところで価値があるかは顧客にしか判断できません。
いくら社内で議論をしたり、確認・検討・研究をしても、そこに答えはないのです。答えとは 「お客にとっての真実」 で、要するにお客にとって欲しいと思えるような価値があるかです。
先ほどの2つ目の 「早めのアイデア検証」 にもつながりますが、うんこ漢字ドリルは開発の初期フェーズから 「答えはお客の中にある」 という考え方がありました。
なお、この話は YouTube でも解説しています。よかったらぜひ見てみてください。
今日のアクション
そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。
このレターの毎回に共通するコンセプトは 「Question Insights Action」 です。意味は、問いかけに対して示唆を得て (Insights) 、半歩でもいいので行動につなげてみませんか (Action) 、というものです。
今回の問いかけは、「自分が大切にしたい人は誰ですか?」 「その “大切な人” を文字通りに大切にしていますか?」 にしたいと思います。
レター内容はマーケティングでのターゲット顧客についてでした。絞った顧客とは自分たちが大切にしたいと考える人 (または企業) です。リソースを注力し、顧客のニーズやインサイトに応えていきます。
これは私たち個人のレベルにも当てはまり、ターゲット顧客とは 「自分にとって大切な人」 です。
具体的にどう大切かの意味合いは、ご自身の心の中にあるはずです。まずはなぜ大切にしたいのか、大切にするとはどうすることか、そして実際に大切にするために自分ができることからやってみませんか?
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レター作成者
多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら)
経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。
主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください
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