#5 「マイナスの差別化」 から価値をつくろう

やらないことを決めた 「マイナスの差別化」 を具体的なビジネス事例からご紹介します。「やめること」 の2つの意味を掘り下げます。
多田 翼 2020.12.17
誰でも

こんにちは。多田翼です。

今回のレターで書いているのは、「マイナスの差別化」 です。マイナスの差別化とは何でしょうか?

ぜひレターを最後まで読んでみて、よければ感想も教えてもらえるとうれしいです。

 「やらないこと」 から差別化をする


本題に入る前に前提となる話です。戦略とはそもそも何かです。

このレターでの共通する捉え方で、戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。

戦略の肝は 「何をやらないか」 にあります。多くの選択肢のある中でやらないことを決め、残った 「やること」 に自分たちのリソースを集中的に配分します。

今回のレターでは 「やること」 と 「やらないこと」 のうち、後者の 「やらないこと」 にフォーカスを当てます。一言でのネーミングは 「マイナスの差別化」 です。

では 「やること」 から、具体的にどうやって差別化をしていけばいいのでしょうか?

身近なビジネスの例で、やらないことを決めて価値提供につなげている 「マイナスの差別化」 を見てみましょう。

マイナスの差別化の事例

では具体的な具体的な事例で、マイナスの差別化は何があるでしょうか?

マイナスの差別化の事例で思いついたのは以下です。

  • スターバックス (店内は禁煙)

  • QB ハウス (カット以外のサービス・設備がない)

  • セブン銀行 (店頭窓口, 融資業務をしない)

  • ライフネット生命 (セールスレディからの対面営業をしない)

  • カーブス (男性の集客をしない (女性のみ) )


いずれの例も、それまでの業界の常識を覆しました。

やらないことを徹底して追求することによって、顧客への提供価値が絞られます。そして、その価値を必要とする人たちに支持されたのです。

 「やらない」 から生まれた提供価値


では上記の 「やらない」 からは、具体的にどのような価値が顧客にもたらされたのでしょうか?

  • スタバはコーヒーの香りを楽しめる。非喫煙者が安心して行ける

  • QB ハウスは早く安い

  • セブン銀行は近くのコンビニで ATM がいつでも使える

  • ライフネット生命は保険内容がシンプル、保険料が低価格

  • カーブスは女性が気軽に行け運動できる


ビジネスで重要なのは差別化です。差別化が顧客価値の源泉になり、競争優位につながります。

整理すると、次のような流れです。

やらないこと → 差別化された価値提供 → 競争優位の実現

あらためて先ほどの5つのビジネス事例をまとめると、次のようになります。

マイナスの差別化の事例

マイナスの差別化の事例


ではもう1つ、最近のニュースからマイナスの差別化を紐解いてみましょう。

ドコモの新ブランド 「ahamo」 

ドコモが2020年12月に新ブランド 「ahamo」 を発表しました。

月にデータ通信量が 20GB まで使える月額2980円のプランです。携帯キャリアの最大手であるドコモから満を持して登場しました。

ahamo で特徴的なのは2つあります。1つはキャリアメールが付与されません。キャリアメールとは 「xxx@docomo」 のアドレスです。

もう1つの ahamo の特徴は、説明や契約手続きは Web のみです。ドコモショップなどの実店舗では取り扱われず、対面での営業、説明、契約、サポートは捨てたわけです。

必然的に ahamo のターゲットとなる顧客も絞られます。キャリアメールを必要としていなく、申込みから契約、サポートまで Web で済ませることに何の抵抗もない人です。

ahamo は 「やらないこと」 を明確にし、ターゲット顧客を絞りコストを下げ、「安くスマホが便利に使える」 という価値を提供します。

ahamo はやることを足し算で増やしていったのではありません。引き算からやらないことを決めて、ahamo は他との 「マイナスの差別化」 を実現しました

捨てることの2つ意味


このレターで最初に見たのは、戦略でやらないことを決める重要性でした。

戦略で大事なのは 「あれもこれも」 と、考えられる全てのことを足していくことではありません。「あれかこれか」 の引き算です。A or B で、まず B を捨てると決めます。

今回のレターでご紹介したスタバや ahamo (ドコモ) などのマイナスの差別化の事例から、私たちは何が学べるでしょうか?

私が思ったのは、「捨てる」 には2つの意味があるということです。

1つは、捨てることによってやることに注力できることです。A and B ではなく、A or B で B を捨て残った A に全力で取り組みます。

もう1つは、捨てたこと自体から顧客への価値が生み出されます

例えばスタバでは喫煙席をなくしました。これは喫煙者を顧客から外したわけです。スタバの店内にたばこの煙と臭いが一切ないことによって、コーヒーの香りを楽しめます。

喫煙者も非喫煙者の両方ではなく、喫煙者か非喫煙者かから非喫煙者を選びました。マイナスの差別化である 「やらないこと」 が価値をつくったのです。

今日のアクション

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回のメッセージを一言でまとめると、「やらないことを決めて差別化をし、価値につなげよう」 です。

やらないことは分解すると2つの意味があります。

捨てることの2つの意味

捨てることの2つの意味


1つはやらないことを決めるからこそ、やることが明確になります。ToDo リストだけではなく ToDon’t リストの重要性です。

もう1つは、やらないこと自体からの提供価値の実現です。例えば、あなたの日常生活やお仕事の中で、今までやっていたことから 「やらないこと」 を決めてみるのはどうでしょうか?

無意識のうちにも続けてしまい、それが良くない習慣になっていたことをきっぱりとやめてみるのです。やめること自体が身体や心にも良い影響を与えてくれるはずです。

今日からあなたは、どんな 「マイナスの差別化」 ができそうですか?

質問・リクエストを募集しています

もしご質問やリクエストがありましたら、こちらの匿名の質問箱にぜひコメントください!


いただいたご質問やリクエストはレターでも取り上げられればと思っています。

それでは次回またお会いしましょう!

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
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