#1 戦略とは何か?戦略の肝は ○○○ にある

戦略の肝は 「捨てることにある」 を、Google やコンサルティングでの事例を交えてご紹介しています。
多田 翼 2020.11.19
誰でも

こんにちは。多田翼です。

Aqxis 合同会社の代表をしています。

はじめに

今回のレターは戦略についてです。

戦略という言葉はビジネスの世界では日常的に見聞きするワードです。ただあらためて戦略とは何かと聞かれると、説明するのに言葉が詰まってしまうかもしれません。

このレターでは、当たり前のように使っている戦略についてを皆さんと一緒に掘り下げて共有できればと思っています。

そもそも戦略とは何でしょうか?

ぜひ最後まで読んでみてください。

戦略とは


あらためて戦略とは何でしょうか?

私の一言の定義があるので、ここで紹介させてください。

戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。この表現が、今のところの私が最もシンプルだと思う戦略の定義で、本質を表現できているのではと思っています。

もう少しこの戦略の考え方について掘り下げてみましょう。

まずは戦略の前提についてです。戦略の上位には目的があります。目的を達成するために最も良いと考える方針が戦略です。

もし目的がなかったり曖昧なままだと、本来は戦略に落とし込めないはずです。しかし自分のまわりでも私自身も目的が不明確なままや、目的を置き去りにした戦略をつくってしまうことはよくあります。

ということで、戦略をつくる時のポイントの一つが 「目的が明確か」 を考えることです。戦略は目的を達成するためのあくまで手段だという認識が大事です。

戦略をつくること自体が目的にならないように注意しましょう。よく言う 「手段の目的化」 です。

戦略の肝とは

では、もう少し戦略とは何かの深いところに入ってみましょう。

先ほどお伝えした戦略とは何かの一言の定義を覚えていますか?

そうです。戦略とは 「目的を達成する “やること” と “やらないこと” の決めごと」 です。

ここでポイントになるのが 「やらないこと」 です。戦略を決めるとは、やらないことを明確にすることでもあります

戦略とは何かをビジネスっぽい表現をすれば、目的達成のためのリソース配分の方針です。リソースとは組織や企業なら人・物・金です。個人のレベルでも同じで、あなたご自身が持っているお金や時間、エネルギーです。いずれも貴重で有限です。

やることを 「あれもこれも」 と増やしてはリソースがいくらあっても足りません。戦略の肝は 「何を捨てるか」 です。「あれかこれか」 の引き算の発想です。

順番はやらないことをまず意思を持って決めます。やらないことが明確だからこそ、残ったやることに貴重なリソースを投入し注力できるのです。

重要なので繰り返しておくと、戦略の肝は 「何をやらないか」 。これはぜひ覚えておいてください。

では戦略的に何を捨てたかの例をご紹介します。

実際のビジネスの上から2つを紹介します。1つは私が当時関わっていた Google のマーケティング、もう1つはある企業でのコンサルティング事例です。

YouTube のマーケティングの話


ではまずは Google のマーケティングです。YouTube のキャンペーンです。

今でこそユーチューバーという名前は一般的になりましたが、これからお話をする YouTube のキャンペーンを始めた2014年後半頃は、ユーチューバーは一般的には認知されていませんでした。

2014年から始まった YouTube のマーケティングのコピーは 「好きなことで、生きていく」 でした。

ヒカキンさん、はじめしゃちょーさんなどの当時はまだ世の中ではそれほど認知が高くはない YouTube クリエイターにフォーカスしたマーケティングキャンペーンでした。

ちなみに少し余談になりますが、Google ではオフィシャルでは 「ユーチューバー」 という言い方は対外的には使わない方針でした。ユーチューバーではなく 「YouTube クリエイター」 という表現を使っていました。自分たち以外のメディアがユーチューバーを使うのは黙認していました。

YouTube のコミュニケーション戦略

話を今回のレターテーマである戦略に戻します。

YouTube をエコシステムと見立てた時に主要なプレイヤーは視聴者 (ユーザー) 、クリエイター、広告主 (+ 広告会社) で成り立っています。このうち 「好きなことで、生きていく」 のマーケティングキャンペーンでは、クリエイターにフォーカスしました。

その中でもテレビで有名な芸能人ではなく、当時はまだ一般的には無名だったユーチューバーを採用しました。今でこそユーチューバーという言葉は定着しましたが 、当時はまだ言葉自体も浸透していませんでした。

戦略の観点で言えば、ピックアップしたユーチューバー以外は捨てたキャンペーンです

Google 社内ではこの方針に様々な意見がありました。ユーチューバーではなく、YouTube では定番の音楽動画コンテンツや、ファンの熱量の高いアニメに注力する考え方もありました。

選ばれたユーチューバーに対して 「なぜこの人たちなのか」 という声はありました。そんな中で YouTube BtoC マーケティングチームは戦略的にフォーカスし 「やること」 と 「やらないこと」 を決めたのです。

では、戦略のもう1つの事例です。

ある企業へのコンサルティング事例


これは私が Google を辞めて独立をした後の話です。ある企業への事業戦略をつくるコンサルティングです。

今後の事業戦略をつくるにあたり、注力する顧客と提供ソリューションの意思決定をお手伝いしました。

製品・市場戦略での方針転換

その会社はマーケティングデータとデータダッシュボードツールを提供する BtoB ビジネスです。それまでは業界 A のメーカー企業を主なターゲット顧客にし、顧客から見ればデータサプライヤーという位置づけでした。

次の事業戦略をつくるにあたっての大きな背景は、このままデータサプライヤーを続ければ他社との差別化ができなくなり、埋没してしまうのではないかという危機感でした。

そこで様々な分析や議論、顧客ヒアリングを重ねた後に意思決定をしたのは、業界をずらしたデータサプライヤーからの脱却を図る方針を立てました

あえて企業を絞ってのマーケティングコンサルティング事業への転換です。それまでの一社当たりの単価に比べて、絞った顧客企業の単価を10倍に上げる野心的な決断でした。

これを 「製品・市場戦略」 に当てはめれば、顧客も市場もずらす多角化の道です (以下の図の右下) 。


ハイリスクハイリターンを選択した背景には、このままでは少しずつしかし確実に自分たちの事業が沈んでいく危機感があったからです。

座して死を待つくらいならリスクを取って次の主力事業をつくる覚悟が、今までとは同じことはしないという 「やらないこと」 を決めたのです。

今日のアクション

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

今回は戦略について、あらためてそもそも戦略とは何かから考えてきました。そして戦略の肝である 「やらないこと」 という視点で事例も交えて掘り下げました。いかがだったでしょうか?

今回のレターから、何かアクションにつながりそうなヒントをお伝えすることはできたでしょうか?

戦略は組織や会社だけのことだというイメージがあるかしれませんが、個人のレベルでも戦略的に考えてみることは有効です。

何かやってみたいと思っていた時に、目的は何か、そのために何をやるか、そしてあえて 「やらないこと」 を最初に決めてみてください。「あれもこれも」 と増やすのではなく、意図と意思を持って引き算の考え方から 「あれかこれか」 と選んでください。

やらないことを決めるのには勇気がいります。だからこそ、普段のちょっとした何かを決める場面で 「戦略の肝は捨てることにある」 を思い出してみてください。

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
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