#10 戦場での差別化方法を YouTube のマーケティング事例で解説

戦場を選択する重要性と、差別化から価値提供の方法です。ビジネスの事例では YouTube のマーケティングの話をご紹介しています。
多田 翼 2021.01.28
誰でも

メールを開いていただきありがとうございます。

今回は、戦略から着想を広げて差別化について見ていきます。みなさんへの問いかけは、「どこで差別化をするか」 です。

ぜひレターを最後まで読んでみて、よければ感想も教えてもらえるとうれしいです。

 「やること」 と差別化


私の戦略の一言の定義は、戦略は目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。

やることで大事にしたいのは他者との差別化です。ビジネスでは、競合他社にはできないことが自分たちにはどれだけできるかです。

顧客にとって他社にはない独自の価値があるほど、自分たちが顧客から選ばれる可能性は高くなります。

では 「やること」 から、具体的にどうやって差別化をしていけばいいのでしょうか?

差別化の3つの要素

差別化と言っても色々です。こういう時は分解をしてみましょう。

戦略の観点から差別化を分解すると、次の3つです。

  • 戦場

  • 戦力

  • 戦法


それぞれをもう少し詳しく書くと、以下のようになります。

差別化の3つの要素

差別化の3つの要素

スポーツへの当てはめ

3つの差別化要素の理解をより深めるために、スポーツを例に当てはめてみましょう。

1. 戦場の例

戦場はまずはスポーツの種目です。球技、陸上競技、水泳、格闘技、将棋や囲碁、e スポーツです。

他には戦場は試合会場といった場所の意味合いもあります。ホーム試合かアウェー試合かによって戦い易さは変わってきますよね。どのスポーツ種目で、ポジションは何で、どこで自分は活動するかが大事です。

2. 戦力の例

次に戦力です。

戦力とはリソースです。スポーツに当てはめれば必要な資質です。運動能力、精神力、頭脳、コミュニケーション力、リーダーシップ、協調力などです。

スポーツ道具や設備、情報 (ルールに精通している, 見方や対戦相手の情報) 、使える予算、他にはコーチ、スタッフ、応援してくれるファンやサポーターです。練習に使える時間も戦力に含めていいでしょう。

3. 戦法の例

戦法とはそのスポーツ種目で勝つためにやること・やらないことです。

練習方針、練習メニュー、シーズンを通してのチームプラン、各試合の方針と作戦です。

サッカーの例


では、戦場・戦力・戦法をサッカーに当てはめてみましょう。

図にまとめると、次のようになります。

サッカーでの差別化要素

サッカーでの差別化要素


以上の組み合わせで、相手プレイヤーや競合チームとの差別化をつくっていきます。

目が向きがちなのは戦法だが…

ここまで差別化の3つの要素である、「戦場」 「戦力」 「戦法」 を見てきました。

3つのうち、意識が向くのは3つ目の戦法です。というのは、戦法は自分がやることなので、わかっていないと取り組むことができません。目の前の 「やること」 として具体的に想像しやすいです。

先ほどのサッカーの例で続けると、対戦相手に勝つためのチームの作戦は勝負を左右することなので、フィールドにいるプレイヤーにはしっかりと頭に入っているでしょう。

一方の戦場や戦力は 「自分がいる環境」 と 「持っているもの」 で、当たり前のようにそこにある存在です。この感覚が暗黙の前提として、自覚をしなくても自然と受け入れてしまう状態をつくっています。その結果、意識することを忘れさせてしまうのです。

もちろん戦法は勝つためには重要です。しかし忘れてはいけないのは戦法の背景には、持っている 「戦力」 とどこで戦うかの 「戦場」 があります。

戦場と戦力はどう戦うかの前提です。前提ということは、戦場と戦力の2つを押さえてからでないと適切な戦い方 (戦法) はつくられないということです。

***

それではここからは少し話を変えて、マーケティングの文脈でビジネスの話に広げます。

3つの差別化要素のうち、戦場をテーマに見ていきましょう。

YouTube のマーケティング事例


この話は、私が Google のマーケティング部門にいた時の経験からです。

私が当時に関わっていた YouTube でグローバルの社内プロジェクトがありました。プロジェクト名は 「YouTube Human Stories」 でした。

プロジェクトの目的は、YouTube ユーザーを深く理解し、ユーザーへのインサイトに基づくマーケティング施策を広告主と広告会社に展開し、YouTube 広告をより活用してもらうことでした。

このプロジェクトを今回のレターのキーワードである 「戦場」 から、どんな意味があったかを掘り下げてみましょう。

 「やることがなくなったら YouTube」 

YouTube Human Stories のプロジェクトでは、YouTube 利用者をあらためて理解するために、直接のインタビュー調査をしました。

私は全てのインタビューの場に立ち会いました。

インタビュー中にある女性の対象者の方がふと口にした言葉がありました。今でもよく覚えていて、「やることがなくなったら YouTube を見ている」 でした。

その瞬間は手元のメモに残す程度で、あまり気にかけませんでした。

ただなんとなくのひっかかりがあり、インタビューの最後に対象者に 「やることがなくなったら YouTube」 の発言にどういう意味があるのかと尋ねました。

私は最初は YouTube はひまつぶし程度に使っていると理解し、それ以上の解釈は深めていませんでした。しかし、最後の追加での質問と、その後のプロジェクトメンバーでの議論から、ここに YouTube が利用者に価値を提供しているポイントを見出したのです。

1日の最後に 「充実させたい自分だけの時間」 


では YouTube の提供価値とは何でしょうか?

先ほどの事例からの我々の解釈は、YouTube の提供価値は、1日の最後の自分だけの時間を充実させてくれることでした。

最初のインタビュー対象者の発言だった 「やることがなくなった YouTube」 の真意は、忙しかった1日でやるべきことを全部終えてからの寝る前の時間における、「最後の楽しみとしての YouTube 」 だったのです。ディナーに例えるならデザートです。

対象者の方は、平日の夜は次のような過ごし方をしていました。仕事から帰り晩ごはんを食べ、入浴や肌の手入れ、スマホでのチャットや SNS などの様々なやることを終え、後はもう寝るだけという時になって YouTube を見るという過ごし方です。

1日の終わりに YouTube を見る時は、自分を飾ることなく素の自分でいられ、ようやく身も心も解放された自分だけの時間です。

この時にリラックスして YouTube を自分の好きなように楽しんでいました。

YouTube が争っていた戦場

ここで話を差別化の戦場に戻しますね。

YouTube が争っていた戦場とは 「自分だけの大切な時間を充実させたい市場」 でした。

YouTube の市場 (戦場) は、一般的には動画サービスとして認知されています。

一方で先ほど見たようなユーザーの利用シーンからの市場 (戦場) は、「1日の最後に充実させたい自分だけの大切な時間」 が戦っている土俵です

では、この戦場での YouTube の競合は何でしょうか?

同じシーンで使われるかもしれない、好きな芸能人やアーティストが出ているテレビ、癒やされる Instagram や TikTok 、さらには見ているだけでも楽しめる EC サイトなどです。

このような捉え方ができたのは利用者の目線になり、どういう具体的な利用状況で YouTube を使ってもらっているか、その時の奥にある気持ちへの理解が深められたからです。

今回の事例では、「1日の最後にある自分だけの大切な時間」 というシーン (戦場) で、他ではなく YouTube が選ばれていました。この戦場において他と差別化され、競争に勝てていたのです。

戦場の選択から差別化へ


YouTube の戦場を単なる動画市場とせず、あるいはひまつぶしのためとは見ずに、「自分だけの大切な時間」 と捉えました。

この戦場で YouTube が差別化できていたのは、YouTube には自分の好きな動画が見きれないほどあるからでした。検索から簡単に探せ、関連動画やおすすめ動画に見たくなるようなものがたくさん並んでいます。

では、利用者への提供価値は何でしょうか?

YouTube の価値は、自分だけの時間をもたらしてくれることです。一人だけの時間に癒され、素の自分に戻ることができるのです

ご紹介した YouTube での 「戦場の見極め」 「差別化の要素」 「利用者への提供価値」 をまとめると、次のようになります。

YouTube の差別化と提供価値

YouTube の差別化と提供価値

マーケティングへの展開

広告主や広告会社へのマーケティングは、この YouTube ユーザーのストーリーを元につくりました。

ストーリーの軸を 「自分の時間を充実させるための YouTube」 としました。もし YouTube を単なるひまつぶし目的の利用としか見なせていなかったら、このストーリーでのマーケティングにはつながらなかったでしょう。

このプロジェクトからの私の学びは、具体的の利用シーンを観察したり訊いて掘り下げることにより、そこにはどんな戦場ができているかをユーザー視点で理解する重要性でした。

そして、戦場で自分たちはどんな差別化を実現し、価値提供につなげているかです。

ちなみに今回ご紹介した YouTube Human Stories のプロジェクト結果は、Google にいた時に Google のオウンドメディア Think with Google に連載をしていました。

今回のレターでも取り上げた YouTube ユーザーストーリーは、その中の第5回に詳しく記事で書いています。よければこちらもぜひご覧ください。

今日のアクション

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回の問いかけは 「どこで差別化をし、どんな価値提供するか」 でした。差別化の3つの要素である戦場・戦力・戦法のうち、1つ目の戦場についてを掘り下げました。

今回のレターからのアクションは、「差別化を分解して考えてみよう」 、「戦場の選択から差別化につなげよう」 、「差別化から価値をつくろう」 です。

やることと言うと3つの差別化の中では戦法に目が向きがちです。もちろん戦法も大事ですが、戦法の前提となる 「自分の戦場」 と 「持っている戦力」 にもぜひ目を向けてみてください。

戦場とは、例えばビジネスキャリアなら、

  • 業界

  • 会社

  • 組織, チーム

  • 職種

  • オフィス環境, リモート環境


最後に質問です。

あなたが活動している環境はどこですか?
そこではあなたの強みを発揮できていますか?
強みが価値につながっていますか?

いただいたリクエストと質問回答

[リクエスト] 本の紹介

以前に回答した質問へのメッセージをいただきました (本の紹介の回答はこちら) 。

このレターでも本の紹介ニーズがありそうなら、ご紹介できればと思っていますがいかがでしょうか?こういう本を教えてほしい、みたいなご要望があれば質問箱からリクエストください!

[質問] 今年の目標は?

今年の目標は一言で言えば 「価値提供」 です。もう少し具体的に、2つのテーマに分けて回答しました。

  • 会社で目指すこと

  • 情報発信で目指すこと

回答の詳細はこちらからご覧ください。

質問・リクエストを募集しています

もしご質問やリクエストがありましたら、こちらの匿名の質問箱にぜひコメントください!

いただいたご質問やリクエストはレターでも取り上げられればと思っています。

もしよかったら Twitter などでシェアいただき、ぜひ感想を教えてください!

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

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