#36 コロナ禍の逆境を跳ね返したお菓子。ヒット商品のマーケティング解説

[レター概要] 弱みを解消し、強みを伸ばした身近な2つのヒット商品から、マーケティングの観点で学べることを解説します。
多田 翼 2021.07.29
誰でも

こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

このレターからわかる内容は、

  • コロナ禍の逆境を跳ね返したお菓子

  •  「煙じゃないのに煙の効きめ」 を見事に実現した殺虫剤

  • 2つのヒット商品から学べること


付録として取り上げているのは、

  • 登壇したマネジメント授業のご紹介

  • おすすめのマーケティングの本

  • USJ がマーケティングセオリーとはあえて逆をやった理由 (YouTube 動画) 

今回のキーワードは2つで、「強み」 と 「弱み」 です。最近おもしろいと思った商品を具体例から 「強みのつくり方」 や 「弱みを解消する方法」 をマーケティングの視点で解説しています

レター内容は、マーケターや商品開発をされている方には特に参考になるかなと思っています。取り上げ商品は異業種の話になるかもしれませんが、他の業界の取り組みから商品やサービスのアイデアへのヒントになると思います。

もちろん、商品開発やマーケティングをしていない方にも、ヒット商品の秘密を書いているので参考になればうれしいです。

ミンティア + MASK

最初にご紹介したい商品は ミンティア + MASK です。コロナ禍の変化にうまく適用したヒット商品です (公式サイトはこちら) 。

引用: <a href="https://www.mintia.jp/product/plusmask/">ミンティア</a>

引用: ミンティア

以下は日経 MJ の記事からの引用です。

アサヒグループ食品のタブレット菓子 「ミンティア + MASK」 が新型コロナの逆風下で売り上げを伸ばしている。

ミンティアは通勤・通学中の購入も多かったが、コロナ禍で外出機会が減少。そこで新たな生活様式に対応し、マスク着用時でも目に染みず、香りがマスク内にとどまるように工夫した新商品を開発した。

3月の販売開始から4カ月半で年間売り上げ目標金額を突破したという。


引用した最後にあったように、「ミンティア + MASK」 は年間の売上目標をわずか4ヶ月半で達成したヒット商品です。

開発の背景と課題感

ではヒットの理由を紐解いていきましょう。

ミンティアの特徴は、爽快感や清涼感、強い刺激です。しかし、コロナによって逆効果となってしまいました。というのは、外出時やオフィスでも常にマスクの着用が一般的になり、マスク着用時にミンティアを食べると刺激の強さが目に染みてしまうのです。

つまり、今までの他の類似商品にはないミンティアの 「強み (独自化要素) 」 が 「弱み」 になってしまったのです。弱みとは、それがあることによって選ばれにくくなってしまう要因です。

強みが弱みになる要因


ここまで見てきたように、ミンティアの強みが一転して弱みになってしまいました。

新型コロナウイルスの流行と、コロナによるマスク常時着用という消費者のライフスタイルが変わったからです。こうした外部環境の変化によって、強み (刺激があり強い清涼感) が、マスク着用時には目に染みてしまうという思わぬ現象が起こってしまったわけです。

弱みの解消と強みの復活

そこでミンティアは新しい強みを獲得しようとしました。

正確に表現すれば、弱みになってしまったことを解消し、もともとあった強みを再び消費者に認識してもらうことです。具体的には、マスクをつけていても清涼感があるという強みを残し、目に染みないという弱みをなくしました。

商品のネーミングに 「MASK」 と入っているところがいいですよね。商品名を見ただけで、マスクをしていても食べられる、もっと言えばマスク着用時のミンティアということがパッと見てわかります。

CM でもマスク着用時という利用シーンを訴求しています。

 「マスク着用時に食べるミンティア」 という食べるシーンを具体的に絞り込んだコンセプトが明確だったからこそできたことです。

開発からネーミングまでのコンセプトに一貫性があるからこそ、ヒット商品になれたのが 「ミンティア + MASK」 です。

殺虫剤 「ゴキブリムエンダー」 

次にご紹介したいのは、金鳥の殺虫剤 ゴキブリムエンダー です (公式サイトはこちら) 。

引用: <a href="https://www.kincho.co.jp/seihin/insecticide/go_aerosol/muender/index.html">金鳥</a>

引用: 金鳥

商品の紹介動画もつけておきます。

キャッチフレーズは 「煙じゃないのに煙の効きめ」 です。

ここで言う煙とは、バルサンなどの 「くん煙剤」 のことです。部屋に煙を炊いて殺虫するタイプです。ゴキブリムエンダーは煙を使わないのにバルサン並みの効果を訴求しています。

***

少しマーケティングの話


ここで話を変えて、マーケティングのことを書いていきます。そもそもマーケティングとは何かについてです。

これは私の一言の定義で、マーケティングとは 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 です。選ばれるとは買ってもらったり使ってもらえることです。選ばれる理由を別の表現をすれば、自分たちの強み、お客さんへの提供価値です。お客は価値を得たいからお金を払ってくれるわけです。まとめると、「選ばれる理由 = 強み = 提供価値」 です。

ここで選ばれる理由とともに見落としてはいけないのは 「選ばれない理由」 です。

選ばれない理由とは、これがあることによって良いところもあるのに (選びたいのに) 、最終的には選ばれずにお客さんは他の選択肢 (競合) を選んでしまうマイナス要因です。選ばれない理由とは 「強みを打ち消してしまう弱み」 です。整理すると、「選ばれない理由 = 弱み = 価値を下げる要因」 です。

選ばれるというプラスの面を伸ばすことも重要ですが、一方で 「選ばれない理由」 ををつぶしておくことも大事です。

ではここで話を先ほどの殺虫剤に戻します。マーケティングの 「選ばれない理由」 という視点で掘り下げてみます。

くん煙剤の 「選ばれない理由」 

煙タイプの殺虫剤は、買いたい・使いたいという 「選ぶ理由」 と、「選ばれない理由」 がはっきりしています。選ぶ理由は他の殺虫剤タイプにはない煙タイプならではの効果の高さです。殺虫成分の入った煙が部屋の隅々まで行き渡り、虫をやっつけてくれます。

一方の選ばれない理由があります。手間と不安です。

煙タイプは効果が高そうなのはわかるものの、いざ使ってみようとすると手間がかかります。具体的には部屋を片付けたり、家具や食器を布で覆う必要があります。また、煙が出るので使っている間は部屋に入れません。終わった後の部屋の片付けも待っています。

人間や飼っているペット、観葉植物への害はないのかという不安感もあるでしょう。殺虫効果が高いので肌への影響や、小さい子供・ペットがいる家庭、観葉植物が置いてある部屋では使いにくいです。

煙タイプは1つの部屋だけでやっても限定的なので (虫は他の部屋へ逃げてしまう) 、全ての部屋をやらないと効果は十分に発揮されません。

選ばれない理由の解消

ここまで、煙タイプのくん煙剤の 「選ばれない理由」 を見てきました。

ゴキブリムエンダーのヒットの秘密は、煙タイプの殺虫剤の選ばれない理由を解消したことです。「高い効果」 「手間いらず」 「安全性」 の3つを全て満たしています。これを実現できたのは、金鳥が高い技術力を持っているからこそです。

使い方は6畳の部屋なら方向を変えて空間に4回プッシュするだけで済みます。

引用: <a href="https://www.kincho.co.jp/seihin/insecticide/go_aerosol/muender/index.html">金鳥</a>

引用: 金鳥


煙タイプで見てきた 「選ばれない理由」 を解消し、かつ煙の 「選ばれる理由」 である高い殺虫効果を併せ持っています

これを一言で 「煙じゃないのに煙の効きめ」 と、わかりやすいキャッチフレーズで 「選ばれない理由の解消」 と 「選ばれる理由の訴求」 をしています。

 「選ばれない理由」 の意味合い

最後にもう少し、「選ばれない理由」 を掘り下げてみましょう。

逆の 「選ばれる理由」 と比べてみると意味合いが見えてきます。顧客から選ばれる理由とは、別の表現をすれば 「強み」 や 「提供価値」 です。強みという他にはない独自性があるから選ばれるし、お金を払ってでも欲しいと思う価値があるから買ってもらえるわけです。

選ばれない理由とは 「弱み」 や 「価値を下げる要因」 です。他と比べて著しい弱みがあると選ばれにくいです。また、本来は価値があるのに別のことで価値が下がってしまうと選ばれる確率は低くなってしまいます。

例えば今回ご紹介したミンティア + MASK の 「マスク着用時に目が染みてしまう」 、くん煙剤の 「手間のかかる使用方法や安全面への不安」 です。

 「選ばれない理由」 にも目を向けよう


マーケティングとは 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 でした。

選ばれる理由をつくるとはプラスを大きくすることで、これは重要です。その一方で忘れてはいけないのは 「選ばれない理由」 の把握と対策です。選ばれない理由は弱みなので、弱みをいきなり強みにすることはできないかもしれません。しかし、せめてマイナスをゼロにすることは必要です。

マーケターの役割として大事なのは、自社商品やサービスの 「選ばれる理由」 だけではなく、「選ばれなかった理由」 も把握し対策を立てることです。

最後に

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は強みと弱みについて、マーケティングの文脈から 「選ばれる理由」 と 「選ばれない理由」 に置き換えてヒット商品を例に見てきました。

強みと弱みは企業や商品・ブランドだけではなく、個人のレベルにも当てはまります。自分の強みをどうすれば伸ばすことができるかを考えるのは大事ですが、弱みをどう解消するか、どうやって補えるかを考えてみることも大切です。

弱みを強みにまで高めることまでは必要だとは思いませんが、時々でいいので自分の弱みにも目を向けておくといいかなと思います。

***

マネジメント授業のご紹介

Schoo さんの授業に登壇しました。正確には動画授業の収録です。授業動画が公開されたので共有です。

15分で学ぶ 元 Google シニアマネージャーが教えるマネジメントの授業


マネジメントのフレームワークや考え方を解説しました。

組織を率いるマネージャーやリーダーの方々へ、"まず知っておきたいマネジメントの基礎知識" を全7回に渡る1回15分の授業です。

マネジメント全般の大切な考え方を 「知らない」 から 「知っている」 状態になり、実践を通して 「できる」 状態になることを目指しています。

コース概要

  • 第1回『マネジメントとリーダーシップ』

  • 第2回『マネジメント 基本編』

  • 第3回『マネジメント 問題解決編』

  • 第4回『チームビルディング 目標設定』

  • 第5回『チームビルディング 意思決定編』

  • 第6回『チームビルディング 組織編』

  • 第7回『チームビルディング コミュニケーション / 会議編』


もしよかったら見てみてください (授業動画はこちら) 。

今週のおすすめ本

今回のレターは強みと弱みについでした。関連するおすすめ本のご紹介です。

この本はマーケティングの入門として、最もおすすめできる内容です。今回のレターの文脈に当てはめると、弱みを消していき USJ ならではの強みをつくっていた話として興味深く読めます。

私も時々読み返していて、マーケティングの基本を学び直せる良書です。よかったらぜひ読んでみてください。

今週の YouTube

先ほどのおすすめ本からの関連動画です。著者の森岡さんが USJ で当時やったことは、マーケティングのセオリーとは逆のアプローチでした。

なぜあえて逆のことをやったかを掘り下げると、目的に立ち返った戦略的判断がありました。

このあたりを動画で解説しています。おすすめ本と併せて、よかったら見てみてください!

USJ の顧客ターゲティングからマーケターが学べること


レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。京都大学大学院 工学研究科 修了。

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