#39 DX 解説 - バズワードに踊らされないために本質を理解しておこう
こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。
今回のテーマは DX (デジタルトランスフォーメーション) です。具体例を見ながら DX の本質やポイントを見ていきましょう。
このレターからわかる内容は、
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DX の本質と3つのポイント
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[DX 事例 1] AI による豚の体重推定システム
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[DX 事例 2] スーパーでの DX 事例
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DX のおすすめの本
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ビジネスモデルから DX を解説した YouTube 動画
今回は、本編と付録も DX が共通テーマです。DX の本質やポイントを一緒に考えていければと思います。
では早速、DX の具体例から見ていきましょう。
AI による豚の体重推定システム
引用: 伊藤忠飼料株式会社
DX の事例でおもしろいと思ったのが、AI を活用した豚の体重推定システムです。NTT テクノクロスが技術開発をし、伊藤忠飼料が販売提供している 「デジタル目勘」 です (目勘は 「めかん」 と読みます) 。
片手で持てるサイズの専用端末から豚を撮影するだけで豚の体重を推定できます。撮影から3秒以内に結果表示がされ、推定の誤差は 4.5% 以内です。公式サイトによれば世界初のシステムとのことです。
以下はデジタル目勘の紹介動画です。
では 「デジタル目勘」 が、どのような点で DX として興味深いのかを掘り下げるために、まずはそもそもの DX とは何かを見ていきましょう。
DX の本質
これは私の一言の定義なのですが、DX とは 「経営や事業のコア領域をデジタル化し、ビジネスモデルを進化させること」 です。
これは裏を返せば、単なる IT ツールの導入は DX の一部分にしかすぎません。これをもって DX 化しているとは言えないのです。DX はコア領域のデジタル化で抜本的に変え、事業や経営の成長のための手段です。
DX のポイント3つ
では、DX のポイントについても見てみましょう。次の3つです。
✓ DX のポイント
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情報のデジタル化と集約
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プロセスの省力・効率化
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価値の創出
それぞれについて補足しますね。
1つ目の 「情報のデジタル化と集約」 とは、これまではアナログだったこと、ブラックボックスだったことをデータ化し一元管理できる状態にします。
2つ目の 「プロセスの省力・効率化」 は、例えばこれまでは紙の書類で手間がかかっていた作業、人の手により行っていたのでミス発生の原因になっていた業務プロセスをデジタル化・自動化することです。効率化や精度の向上が期待できます。
3つ目の 「価値の創出」 とは、デジタル化によって新しい価値が生まれることです。効率化により時間ができるのでその分を大事なことに使えたり、顧客への提供価値に貢献します。機会損失がなくなり、売上や収益が増えることにつなげます。
「デジタル目勘」 に見る DX の3つのポイント
では話を先ほどの豚の AI 体重推定システムの 「デジタル目勘」 に話を戻します。今の DX の3つのポイントに沿って見ていきましょう。
[ポイント 1] 情報のデジタル化と集約
引用: 伊藤忠飼料株式会社
一般的には豚の体重は人が直接測っています。豚の重さは収益に直結する大事な目安指標ですが、アナログ的な計測方法でしかやれておらず、測定の精度は高くありませんでした。
1頭ずつ全ての豚を人の手で測ることはできないので、現場の担当者が目視から予想していた豚の体重情報をデジタル化しました。
[ポイント 2] プロセスの省力・効率化
豚の体重計測の従来のやり方は、豚を移動させ1頭ずつ体重計に乗せて測っていました。豚は 100kg 以上あり2人1組での重労働で、何頭もの豚の体重計測は半日以上かかることもあります。
全ての豚をきちんと測ることは現実的ではなく目視も使っていましたが、測定者の熟練度合いで体重測定値にバラツキが生じていました。ここに養豚農家の 「不」 がありました。
この問題を解決したのが 「デジタル目勘」 です。得られた効果は、作業負担の軽減、効率化・時間の短縮、売上への機会損失を減らしました。
[ポイント 3] 価値の創出
興味深いと思ったのは、デジタル目勘を使うことにより生まれた新しい価値です。
豚の撮影結果を毎日繰り返すことによって、人による 「豚の体重推定の能力向上」 につながっているそうです。撮影前に 「この豚の体重は 105kg くらいかな」 と予想し、デジタル目勘での AI の推定結果と答え合わせをするわけです。デジタル目勘は熟練者になるためのトレーニングの機会を提供しています。
他の価値は、売上の増加や収益向上も実現させています。
以上のようにデジタル目勘は、単に豚の体重測定を便利にしただけではなく、養豚農家の情報をデジタル化し、業務プロセスの効率化、経営収益の改善をもらたした DX の事例です。
続けて、DX の事例をもう1つご紹介します。
小売の DX 事例
ご紹介したいのは小売業界の DX です。
凸版印刷の店頭サイネージで、「リアル DATA サイネージ」 です (ニュースリリースはこちら) 。
引用: 凸版印刷
特徴は2つあります。
✓ 「リアル DATA サイネージ」 の特徴
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店頭でのサイネージ (映像ディスプレイ)
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サイネージに取り付けられたカメラでの来店客の購買行動データ収集
リアル DATA サイネージは、この2つからメーカーの店頭プロモーションを支援するサービスです。
従来は、サイネージは商品情報を流すというアウトプットのみでした。しかしリアル DATA サイネージはインプットの機能も持っています。インプットとはお客の買いもの行動データの収集です。
買いものデータの活用
具体的には、
✓ 買いもの行動のデータの例
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店内の商品棚の前を通った人の人数
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棚前での滞在時間
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来店客の性別年代
引用: 凸版印刷
これまでは店頭での客の行動はブラックボックスでした。店員が目で見て観察すればお客の買いものの仕方はわかりましたが、大量のデータは取れませんでした。
リアル DATA サイネージは、店内の購買行動データという今まではアナログ情報でブラックボックスだったことをカメラでデータ収集しデジタル化します。これが DX の1つ目のポイントである 「情報のデジタル化と集約」 です。
そしてリアル DATA サイネージは、収集した購買行動データから販促プロモーションなどのマーケティング施策に活用できます。
メーカーの売上が増えるだけではなく、来店する消費者にとっても自分が欲しいと思える商品の品揃えが充実し、見つけやすい・買いやすい店のレイアウトになります。
つまり小売・メーカー・消費者の全員にベネフィットを提供しています。DX の3つ目のポイントである 「価値の創出」 です。
最後に
そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は DX でしたが、いかがだったでしょうか?
最後に1つだけ DX で忘れないようにしておきたいことを書いておきます。
このレターの最初に DX とは何かを掘り下げました。DX とは経営や事業のコア領域をデジタル化し、ビジネスモデルを進化させることでした。この意味において、DX とはどこまでいっても 「手段」 です。DX 化それ自体が目的にはなりません。
DX は去年くらいから人気のワードです。多くの企業が DX を推進させる課題感を持っていると感じます。コロナによってその勢いは留まるどころか、むしろ加速している印象があります。だからこそ、今一度、DX とはそもそも何か、DX はあくまで経営や事業を変えるための手段であり、目的は顧客に価値を提供すること、その先の世の中をより良くすることが目的であることは忘れないようにしたいです。
今週のおすすめ本
今回は DX についてでした。
DX のおすすめの本が いまこそ知りたい DX 戦略 - 自社のコアを再定義し、デジタル化する (石角友愛) です。
この本は DX の本質が書かれていて、DX を実現するための実践方法が事例とともに詳しく紹介されています。読んで DX の理解が深まりました。
内容を一言で言えば、DX とは何か (本質) 、どうやって DX を実現するかが豊富な事例とともに分かりやすく書かれています。DX の考え方や実現方法が、理論と具体例がセットで説明されます。著者の石角さんが CEO をされているパロアルトインサイトでの100社以上の顧客実績から、説得力のある内容になっています。
よかったらぜひ読んでみてください!
今週の YouTube
続けて YouTube の紹介です。同じく DX について解説した動画です。
ビジネスモデルの要素分解から、DX のことが理解できる内容になっています。ビジネスモデルとは、要するに次の4つの組み合わせからです。
✓ ビジネスモデルの要素分解
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誰に: ターゲット顧客
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何を: 顧客への提供価値
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どうやって: 価値提供の実現方法 (事業プロセス)
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いくらで: 価値提供からの収益モデル
この4つを DX 領域の全体像として当てはめています。
[DX 解説] ビジネスモデルの本質からの DX 領域の全体像
レター作成者
多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら)
主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください
経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。
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