#32 雑草の弱者戦略を解説。「本当の雑草魂」 になる方法とは?

身近なところにある戦略を雑草からご紹介します。「弱者の戦略」 と 「ニッチ戦略」 の解説から、ビジネスキャリアにも着想を広げています。
多田 翼 2021.07.01
誰でも

こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

今回のテーマは戦略です。


レターからわかる内容は、

  • 雑草の 「弱者の戦略」 

  •  「雑草魂」 の本当の意味

  • ニッチ戦略と、3つの参入障壁のつくり方

  • フリーランスの働き方への応用


付録としては、次のコンテンツも用意しました。

  • 寄稿記事のご紹介

  • 今週のおすすめ本

  • 今週の YouTube


レターの本文に話を戻すと、前半は雑草の戦略、後半では戦略からビジネスキャリアに横展開をしています。

ではまずは、雑草の戦略から紐解いていきましょう。

雑草とは

最初にご紹介したい本があります。雑草はなぜそこに生えているのか - 弱さからの戦略 です。


この本を一言で言えば、雑草のことを戦略という視点でおもしろく読める本です。雑草の 「弱者の戦略」 が興味深く、雑草の実態は知らないことばかりでした。仕事やキャリアにも示唆があり読み応えがありました。

以下は本書の内容紹介からの引用です。

 「抜いても抜いても生えてくる、粘り強くてしぶとい」 というイメージのある雑草だが、実はとても弱い植物だ。

それゆえに生き残りをかけた驚くべき戦略をもっている。厳しい自然界を生きていくそのたくましさの秘密を紹介する。


雑草と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?

この本には雑草を、「望まれないところに生える植物」 や 「邪魔になる草」 であると書かれています。様々な雑草に共通する特徴は 「弱い植物」 なのです。

競争から逃げてきた


本によれば、雑草は森林など他の多くの種類の植物がいる環境では生きていけないとのことです。競争は大きく2つの奪い合いがあり、いずれにも雑草は勝てません。

植物の競争

  • 日光の奪い合い (上へ伸びたり, 枝葉を広げる) 

  • 地中の水や養分の奪い合い


自然界は激しい生存競争が繰り広げられていて、雑草はこれらの競争に弱い植物なのです。森林や山は自然が豊かですか、これを別の見方をすれば激しい競争の環境です。

競争に弱い雑草は生きていくことができず、別の場所で生きることを選択しました。道ばたや畑・田んぼなどの人間のいる環境です。雑草は植物全体で見れば特殊な場所に逃れてきたわけです。雑草は弱いからこその弱者の戦略をとりました。

雑草の 「弱者の戦略」 

雑草は森林や山々という植物同士の競争環境が激しいレッドオーシャン (血で血を洗うような真っ赤な海から競争の激しい環境を意味する) から、他の植物がいないブルーオーシャンに移ってきました。

しかし、そこでは新たな戦いが待っていました。人間との戦いです。人との戦いでも、雑草は真正面から戦うことを避けます。弱いからこその一貫した戦略があります。

雑草の戦略

  • 種からすぐに芽を出さない。芽を出すタイミングはバラバラ

  • 踏まれても起き上がらない

  • 環境変化に素早く適応する


3つについて、順番にご説明しますね。

[雑草の戦略 1] 種から芽を出すタイミングはバラバラ


雑草は種から芽を出すタイミングに多様性を持たせています。

種から芽を出すまでに時間をかけ、最適なタイミングを窺っているとのことです。一般的な野生の植物よりも、雑草はより複雑な発芽の仕組みを持っているそうです。規則正しく芽を出さないのは、雑草の生える環境には予測不能な変化が起こるからです。

また、出芽のタイミングをあえてバラけさせています。一斉に芽を出し、その後に人間に草取りをされてしまうと全滅してしまうのを防ぐためです。

[雑草の戦略 2] 踏まれても起き上がらない

日本語には 「雑草魂」 という言葉があります。雑草魂へのイメージは、しぶとい・あきらめないという粘り強いものでしょう。しかし、雑草の実際はこのイメージとは異なります。

この本に書かれていておもしろいと思ったのは、踏まれた雑草は立ち上がらないということです。踏まれたら、そのまま横たわっているのだそうです。

なぜ立ち上がらないのかと言うと、立ち上がることにエネルギーを使うことは優先度が低いからです。雑草にとって大事なのは、いくら踏まれようが種子を残すことです。立ち上がることに余計なエネルギーを使うよりも、踏まれても種子を残すことに注力しているのです。

[雑草の戦略 3] 環境変化に素早く適応する


雑草が生息する環境は、自然界に起こる環境変化に比べて、変化が短期間に急激に起こります。例えば、人間による除草です。根こそぎの草刈りが起こり得る環境では、全滅の可能性があります。

雑草の環境変化への素早い適応の事例でおもしろかったのは、ゴルフ場の例でした。

ゴルフ場ではコース内に、グリーンやラフなどのエリアがあります。違いは芝や草の高さです。ゴルフ場はコースの整備によって草の高さが変わりますが、雑草はグリーンやラフごとで、刈られる高さまでしか自分を伸ばさないようです。

自ら高さをまわりに合わせることによって、刈られずに生き延びられます。

雑草の戦略と目的

ここまで雑草の 「戦わない」 という戦略を見てきました。戦わないのは、目的が明確だからです。

雑草の目的は、種子を蒔いて子孫を残すことです。この目的を達成するために 「やること」 と 「やらないこと」 がはっきりしています。他の植物と真っ向勝負をするのではなく、生きる場所を変え、環境に適応し、人間との向き合いでも正面から戦うことを避けています。

この本に書かれていたことで印象に残っているのは、「雑草魂とは、大切なことを見失わない生き方」 でした。

***

ここまでは雑草の戦略についてでした。では次に、ビジネスに着想を広げて 「ニッチ戦略」 を見ていきましょう。

ニッチ戦略とは


ニッチ戦略と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか?

ニッチ戦略はトッププレイヤーとは戦わない戦略です。カテゴリートップの企業やブランドの地位を狙うのではなく、限られた市場において利益を上げていく戦略です。

ニッチ市場の参入障壁

ニッチ企業が大手企業を参入させないために、参入障壁を築きます。

ここでもう1冊、本の紹介をさせてください。競争しない競争戦略 - 消耗戦から脱する3つの選択 に、参入障壁について興味深いことが書かれていました。


参入障壁は、具体的には次の3つです。

ニッチ市場での参入障壁

  • 市場規模をあまり大きくしない

  • 利益率をあまり高くしない

  • 市場を急速に立ち上げない


興味深いと思った理由は、3つとも大手企業で求められていることとは逆だからです。

ニッチ戦略を取るプレイヤーには理にかなっています。なぜなら、あえて市場を大きくぜず、利益率も高めすぎない状況を保つことによって、大手が市場の魅力に気づかないようにする、つまり大手が参入しようと思われないようにするためです。

***

ここまで見てきたニッチ戦略の考え方は、企業だけではなく個人にも活かすことができます。

例えばフリーランスです。企業に勤めている場合と比べて、独立しているフリーランスは会社の後ろ盾や看板がありません。ニッチなアプローチを必然的に取らざるをし得なくなるわけです。

ではここからはニッチ市場での参入障壁のつくり方を、フリーランスでの働き方に応用をしてみます。

フリーランスでの働き方へのヒント


私は2018年9月に5年5ヶ月いた Google を辞め、フリーランスになりました。ニッチ市場の量的な参入障壁のつくり方で思ったのは、フリーランスでの働き方への示唆になります。

もう一度、ニッチ市場での参入障壁のつくり方を見ると、

ニッチ市場での参入障壁

  • 市場規模をあまり大きくしない

  • 利益率をあまり高くしない

  • 市場を急速に立ち上げない


この3つをフリーランスに当てはめると、次のように置き換えることができます。

フリーランスでの働き方へのヒント

  • 仕事量を多くしすぎない

  • 自分だけが儲けすぎない

  • 新しい仕事を一気につくらない


では、それぞれについて解説をしますね。

[フリーランスへのヒント 1] 仕事量を多くしすぎない


フリーランスになった当初で自分がやってしまったことは、仕事を入れすぎていました。

仕事をやろうと思えば際限なくできてしまうので、当時は仕事へのおもしろさもあり、スケジュールが過剰に埋まっていました。短期的にはこなせましたが、長い目で見れば健全ではない状態でした。

この経験から学んだのは、スケジュールに余裕をつくることの重要性です。余白という肉体的にも精神的にもスペースがあるからこそ、新しい仕事を入れたりチャレンジ機会の活かすことができます。

[フリーランスへのヒント 2] 自分だけが儲けすぎない

フリーランスへの学びで他にあるのは、必要以上に相手から対価をもらうなどの自分だけが儲かりすぎる仕事にはしないことです。

これも短期では成り立っても、長期的には続かないです。

ビジネスの関係者の全員が満足できるようにするためにはどうすればいいかは、フリーランスだからこそ視野が狭くならないためにも大事にしたいスタンスです。相手に華を持たせる姿勢を忘れないようにしたいです。

[フリーランスへのヒント 3] 新しい仕事を一気につくらない

ニッチ市場への3つ目の参入障壁からのヒントは、新しい仕事への向き合いについてです。特に新しい相手との仕事は、最初から売上をつくるよりも、あえて立ち上げはゆっくりと進めます。

具体的には、最初はトライアル期間とし、場合によっては対価を請求せずに以下のことを見極めます。

トライアル期間の意味合い

  • 自分ができることの見極め

  • 相手が期待する価値への理解

  • ビジネス環境、人やカルチャーとの相性の把握


トライアル期間は売上がないので、ここだけを見るとただ働きで仕事としては赤字です。

しかし先行投資と考え、短期ではなく中長期で捉えます。フリーランスでの経験から、長く良い関係を築くために、あえて新しい仕事は一気につくらないやり方をしています。

今日の問いかけ

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は雑草の戦略を取り上げました。身の回りにいる雑草も、自分たちが生き残り続けるために戦略があることがわかると、道端に生えている雑草を見る目も変わるのではないでしょうか?

人は誰しもが時には弱い存在です。ちっぽけな自分だったりします。だからこそ、弱者の戦略をとる雑草からも学ぶことはあります。

雑草魂とは、大切なことを見失わない生き方でした。あなたにとっての 「雑草魂」 は何ですか?

***

寄稿記事のご紹介

月刊誌 「近代中小企業」 に寄稿記事が掲載されました。


7月号の特集は “適切な 「価格」 決定方法” でした。

会社 HP の問い合わせフォームに依頼連絡をいただき、記事を寄稿しました。書いた記事は PDF での公開は OK とのことですので、よかったらぜひ読んでみてください。

今週のおすすめ本

レター本文でもご紹介した 競争しない競争戦略 - 消耗戦から脱する3つの選択 です。


戦略とは 「戦いを略す」 と書きます。サブタイトルに 「消耗戦から脱する3つの選択」 とあり、次の3つの 「競争しないための戦略」 を興味深く読める本です。今回のレターでは1つ目のニッチ戦略を取り上げました。

競争しないための戦略

  • ニッチ戦略

  • 不協和戦略

  • 協調戦略


事例が豊富でわかりやすい本ですので、よかったら読んでみてください。

今週の YouTube

今回は雑草の弱者戦略をご紹介しました。雑草魂という言葉も使いましたが、ここからの関連動画です。

1999年の流行語大賞は 「雑草魂」 でした。この年にプロ野球の巨人に入団した上原浩治投手が使ったことで流行しました。ちなみに西武に入団した平成の怪物・松坂大輔投手の 「リベンジ」 も流行語大賞になりました。

ご紹介したい動画は、上原投手が所属していたボストン レッドソックスが2013年にアメリカ・メジャーリーグのワールドシリーズを制覇した時のシーンです。クローザーとして勝利へのマウンドを託された歴史的な瞬間です。

上原 2013 ワールドシリーズ 第6戦

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。京都大学大学院 工学研究科 修了。

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