#31 経営戦略の極意 - 赤字すれすれの書店事業に見る経営目線になる方法

利益 0.1% の事業を例に、経営戦略のポイントを解説します。後半では経営戦略を個人にも当てはめ、経営者目線になる方法をご紹介しています。今回からおすすめ本の紹介コーナーを新しく始めました。
多田 翼 2021.06.24
誰でも

こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

今回のテーマは戦略です。

レターからわかる内容は、

  • 利益を出していない丸善の書店事業

  • 書店事業が赤字すれすれでも存続している理由

  • 経営戦略のポイント3つ

  • キャリア相談から考える 「株式会社 自分」 を持つ重要性

  • 戦略的な意思決定方法 ( 「今週の YouTube」 コーナー) 

  • 経営戦略がよくわかる本 ( 「今週のおすすめ本」 コーナー) 


では早速、丸善の 「赤字すれすれの事業」 から見ていきましょう。

丸善の書店事業


最初にご紹介したい記事があります。


以下は記事からの引用です。

同事業 (引用者注: 書店事業) の営業利益率はわずか 0.1% 。同じく株式上場している書店の三洋堂ホールディングス 2.23% (21年3月期業績予想) 、蔦屋書店を展開するトップカルチャー 1.4% (20年10月期) と比べ、大きく差が開いており、同業他社と比べてもかなり低い水準だ。

それでも 「丸善全体」 としてみたときに経営自体は安定していると筆者はみる。書店の丸善は丸善 CHI ホールディングスの一小売部門で、その他の事業がしっかりと稼いでいるからだ。

同社の事業セグメントは店舗・ネット販売事業のほか、文教市場販売、図書館サポート事業、出版事業、その他で構成されている。この文教市場販売、図書館サポート事業が同グループの収益の柱になっている。



書店事業への経営的な判断

書店事業の営業利益率が 0.1% でも事業が存続できる理由は、他の事業がカバーしているからです。

具体的には文教市場販売と図書館サポート事業です。記事によれば図書館サポート事業の営業利益率は書店事業の88倍とのことです。

たとえ1つのある事業が儲かっていなくても他に稼ぎ頭の事業があれば、利益が出ていない、時には一過性の赤字であっても事業を存続させることができます。

この判断は個々の事業レイヤーではなく、経営のレイヤーで行うものです。つまり経営戦略としての決断なのです。

***

戦略とは


ここであらためて戦略について考えてみましょう。そもそも戦略とは何でしょうか?

戦略とは目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。別の表現をすれば、戦略とは目的達成のためのリソース配分の指針です。どこにリソースを注力するかです。

経営戦略のポイント

経営戦略の1つの大事な要素は、事業ポートフォリオのマネジメントです。

経営リソースである人・モノ・金をどの事業にどれだけ、いつ投入するかを決めます。特に意図的にリソースを減らす、さらに言えばその事業をクローズさせる (撤退する) という判断は経営者にしかできません。撤退の最後の意思決定をするのは、事業責任者ではないのです。

それでは、経営戦略のポイントを掘り下げてみましょう。3つあります。

経営戦略のポイント

  • 全事業の現状と将来の把握

  • リソース配分の決定 (時には撤退判断) 

  • 事業間シナジーの創出


順番にご説明しますね。

[ポイント 1] 事業の現状と将来の把握

経営者に求められるのは、全ての事業の現状を把握し、将来のあるべき姿を描くことです。具体的な着眼点は、参入している市場の成長性や競争環境、自社のシェアです。

現時点の 「点」 だけではなく、未来への 「線」 として捉えます。丸善の例に当てはめれば、書店事業の他に、文教市場販売、図書館サポート事業、出版事業について書籍を提供するという観点から俯瞰して現状を把握し将来像を描きます。

[ポイント 2] リソース配分

リソースは有限です。意図と意志を持ってリソースを配分します。

リソース配分状況とは、経営の戦略が目に見える結果として表れたものです。丸善が利益の出ない書店事業にリソースをかける判断をしたように、リソース配分には経営者としての覚悟が問われます。

[ポイント 3] 事業間シナジーの創出

全事業を個別に把握するだけではなく事業間の相乗効果が出るようにします。1 + 1 + 1 = 3 ではなく、4 や 5 になるようにです。

事業間のシナジーとは例えば丸善で言えば、書店からの情報やノウハウが図書館運営に活かされ、図書館事業での情報が書店にも活用できます。これは、書店も図書館サポート事業も、大局的に見れば本を読みたい人に本を提供する事業だからです (違いは売るか貸すか) 。

***

ここまでの経営戦略の話は、企業だけではなく個人のレベルにも当てはまります。ある方からのキャリア相談からご紹介しますね。

キャリアの相談


半年以内を目処に退職を考えているとのことでした。

本業以外に副業をやっていて、これからは副業や他の新しいことにも挑戦したいというのが退職理由でした。この会社は数十人規模で、もし退職すると会社全体にとっても抜けるインパクトは大きいです。

アドバイス

アドバイスとして1つ提案をしました。これまでの本業であった今の仕事を、退職後も業務委託として関わってみてはどうか、と。

外部コンサルタントの立場になり、かける時間を減らしつつも業務支援やメンバーの育成をしていく仕事です。

今までの本業の時間からはリソースを減らし、その分を新しいことに振り分けていく考え方です。これまでの本業と副業のリソース配分が逆になるイメージです。

業務委託として関わることの、メリットとデメリットも伝えました。

メリット

  • これまでの仕事を続けることは安定した収益確保になりセーフティネットを持てる

  • 業務委託での経験や学びを、新しくやりたいことに活かせる

  • 今の会社とも Win-Win になる (価値提供を引き続きできる) 


デメリット

  • 今までよりも減らすとはいえ、業務委託に一定のリソースを使うことになる

  • 新しくやりたいことに 100% 注力はできない

  • 業務委託の負担が大きくなると、そもそも何のために退職したかがわからなくなる


彼との最初の相談の場では、結論は出ませんでした。辞めるタイミングも含め、考えてみるとのことでした。

一番伝えたかったこと

業務委託として関わるという提案は、あくまで1つの選択肢です。私が彼に伝えたかったことは、一言で言えば経営者目線を磨くことです。 自分を1つの会社と見立て、「株式会社 自分」 をつくってみるのです。

独立をすると、自分という人間を1つの会社と見立てるようになります。会社と捉えれば、自分の仕事や活動の1つ1つが 「事業」 と見るようになるわけです。経営者目線に立てば、先ほどの業務委託の話は、これまでの本業をきっぱり辞めるのではなく、事業として継続する選択です。いきなり完全撤退ではなく、徐々にフェードアウトをするという考え方です。

独立をすれば、今後もこのような決断は何度もあります。その時々で1つ1つの決断が経営者目線を鍛えてくれます。

今日のアクション

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。

最後に、経営者目線になるためにはどうすればいいかを考えてみましょう。経営者として自分への問いかけは、次のようなものがあります。

自分自身を経営するための問い

  • どれくらいの数と幅で事業 (仕事) を持つのか

  • 各事業への自分の時間やエネルギーの配分 (ポートフォリオ設計) 

  • 事業ごと将来性の見極め。長く続けたいことか、それとも一過性なのか

  • 各事業での相乗効果 (一見すると異なる仕事でも俯瞰すると共通点が見えてくる) 

  • 短期的には損な仕事や役回りでも、未来への投資とするか (赤字前提の先行投資) 、短期的な収益を狙うか


簡単には答えが出ないかもしれません。だからこそ向き合う意味があります。

これからもずっと自分を経営していく時に、時々でよいので立ち止まって自分を見つめ直す機会を持ってみるといいかなと思います。

***

今週の YouTube

今回のテーマは戦略でした。

関連動画で、戦略のポイントになる 「やらないこと」 を決めるための意思決定の方法を紹介した動画です。

戦略の本質は 「やらないこと」 。やらないための戦略的な意思決定方法3つ

今週のおすすめ本

新しいコーナーです。レター内容につながる本をご紹介できればと思ってつくってみました。

今回取り上げる本は、全社戦略がわかる (菅野寛)  です。


今回のレターは経営戦略について取り上げました。

この本は、事業戦略と全社戦略 (経営戦略) の違いがわかりやすく書かれています。全社戦略は、単に事業戦略を積み上げてできるものではありません。事業戦略と経営戦略を考える時は、論点が全く異なります。

この本のおかげで、事業戦略に加え経営戦略の仕事にも幅が広がりました。

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。京都大学大学院 工学研究科 修了。

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