#29 Google のデータビジネスモデルを解説。データ活用の3つの壁と乗り越える方法
こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。
今回のテーマは 「データの価値化」 です。前半はビジネスの話、後半では個人のスキルアップやキャリアにも着想をひろげています。
レターからわかる内容は、
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マーケティング界のドラッカーの言葉
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データ活用の3つの壁
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Google の検索ビジネスモデル誕生の秘密 (壁を乗り越えた事例)
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スキルアップ方法への応用
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セールスフォースのビジネスモデル解説 ( 「今週の YouTube」 から)
ぜひ最後まで楽しみながら読んでみてください。
マーケティング界のドラッカー
セオドア・レビット (Theodore Levitt: 1925 - 2006) は、マーケティング界のドラッカーとも称されます。1960年代に近視眼的マーケティングを提唱したことでも有名です。
セオドア・レビットへのインタビュー記事が、ビジネス誌 ハーバード・ビジネス・レビュー (2008年11月号) に掲載されていました (記事は2001年6月のインタビューの再掲です) 。
ハーバード・ビジネス・レビュー 2008年11月号のテーマは、「マーケティング論の原点」 です。
インタビューでセオドア・レビットは、データと情報について興味深い指摘をしています。以下は該当箇所からの引用です。
過度なデータ主義も奨励されるものではありません。人間から識別力や判断力を奪うには、膨大なデータや情報を注入することです。
データは情報ではないし、また情報は意味ではありません。データを情報に、情報を価値に変えるには何らかの加工が必要です。それが思考です。
データや情報は意味ではない
引用した内容で印象に残ったのは、「データは情報ではない、また情報は意味ではない」 です。
データとは英語で Data 、情報は Information 、意味は Meaning です。それぞれの意味合いをビジネスに当てはめると、
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データ (Data) : 単に集められた数字で、収集されたローデータの状態
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情報 (Information) : Data が加工、集計され、数表やグラフになっている状態
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意味 (Meaning) : Information から得られた結論・考察・示唆
セオドア・レビットは 「情報は意味ではない」 と言いました。
先ほどの3つ、Data, Information, Meaning から言えるのは、データの状態では不十分で、インフォメーションにしてもまだ十分です。インフォメーションから分析や評価をし、はじめて価値のあるものになる、すなわち意味があるということです。
それでは、どうすればデータを価値に変えることができるのでしょうか?
データ活用の3つの壁
データを持っているだけでは、まだ価値を生んでいません。
ビジネスでは次のような 「データ活用の3つの壁」 を乗り越えることが大事です。
データ活用の3つの壁
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機会発見の壁
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ソリューションの壁
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マネタイズの壁
それぞれについて簡単に補足しますね。
1つ目の 「機会発見の壁」 とは、データがビジネスで何の問題を解決するかを見出すことへのハードルです。活用する機会を見つけることが最初の関門です。
2つ目は 「ソリューションの壁」 です。機会を見つけたとして、その問題をデータを使って解決し価値を提供できるかです。問題は特定したとしても解決できなければ、データから価値につながりません。
3つ目の 「マネタイズの壁」 は、価値提供から収益を生めるかです。ビジネスでは後からでもいいので、データから稼げる仕組みをつくることが重要です。
では、3つの壁の具体例を Google の検索データに当てはめて解説をしていきます。Google はそれぞれの壁をどのように乗り越えていったのでしょうか?
Google の検索データの価値化
ここで取り上げる Google が持っているデータは、検索をした人の 「検索キーワード」 です。例えば、「東京駅 カフェ」 、「北海道 来週 気温」 です。検索利用者が検索ボックスに入力する語句をデータとして保存しています。
検索キーワードから、その人の興味や知りたいことが見えてきます。「東京駅 カフェ」 は東京駅で飲食店を探している、「北海道 来週 気温」 は来週に旅行か出張で北海道に行く予定があり現地の気温から着ていく服の参考にしたい、という興味関心やニーズです。
それでは、このような検索データを使って Google はどのように価値化と収益化を実現したかを、データ活用の3つの壁から見ていきましょう。
データ活用の3つの壁 (再掲)
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機会発見の壁
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ソリューションの壁
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マネタイズの壁
1. 機会発見
商品やサービスをお客さんに売っている事業会社がやりたいことは、自分たちの商品・サービスに興味を持ってもらえそうな人、もっと言えば買ってもらえそうな人に直接アピールしたり宣伝することです。
想定しているニーズを持っている人が見つかれば、その人たちだけに商品やサービスのことを効率よく伝えたいわけです。
例えば自宅用の子ども用プールを売っているメーカーにとっては、子どもがいてビニールプールを買いそうな人を見つけたく、こうした企業ニーズが Google にとってのビジネス機会になります。
2. ソリューション
Google がやったことは、検索結果ページの一番上の目立つ位置に企業向けの専用スペースを用意しました。
ここに検索キーワードに沿った商品・サービス情報が表示されるようにしたのです。
仕組みはこうです。あらかじめ検索ワードを指定しておき、例えば 「子ども プール 家」 とします。このキーワードで実際に検索した人に、検索結果ページに子ども用ビニールプールの商品を表示しアピールします。企業にとっては、興味があり検索で探していて、買ってくれそうな人だけに見せることができます。
要するに Google がやったことは、検索データを使って、売りたい人と買いたい人をマッチングしたわけです。
同じ人でも 「子ども プール 家」 の検索にはビニールプールを見せますが、「晩ごはん 白菜 にんじん 献立」 と検索をした場合には見せません。あくまでその検索した時に知りたいこと、興味のあることに関連する情報を届けたいからです。
Google のコンセプトは 「適切な人に、適切な情報を、適切なタイミングで届ける」 です。
3. 収益化
Google は、検索結果ページへの表示スペース (アピール場所) を有料で提供することにしました。
企業にとっては、興味があり買ってくれそうな人への宣伝機会はお金を払ってでも欲しいものです。そこから商品サービスが売れれば、Google にお金を払ってても元を取れます。
Google は広告がクリックされればお金を支払ってもらう課金方法にしました (その後に広告がクリックされず表示だけの課金方法も追加され、広告主は選択できるようになりました) 。広告がクリックされるという成果があった時だけに支払うので、払う側にはわかりやすく納得感のある支払い方法です。
以上のように Google は保有していた検索ワードデータを企業 (顧客) にとっての価値に変え、提供価値への対価として収益化まで実現しました。今でも検索広告は Google の収益源の1つです。
さて、3つの壁は企業だけではなく、個人のレベルにも当てはまります。具体的にはビジネスキャリアとスキルアップです。
キャリアとスキルアップへの応用
個人でのキャリア形成やスキルアップに当てはめるにあたって、ここまで見てきたデータを 「専門スキル」 「知見」 「経験」 と見立てます。
データが活用されず持っているだけではまだ価値を生んでいないように、専門スキルや知見も自分の中にあるだけでは価値を提供できてはいません。
価値につなげる時に、先ほどの 「データ活用の3つの壁」 がヒントになります。
専門スキルから価値転換の3つの壁
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機会発見の壁
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ソリューションの壁
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信頼獲得の壁
では順番にご説明しますね。
1. 機会発見
持っている専門スキルは、どこの、誰の、どんな問題と課題に活かせるかです。
専門スキルを活用する環境と状況を見極めます。自分の持っている特徴がより発揮できるところを選ぶ意識が大事です。
2. ソリューション
見極めた機会と自分がいる環境で問題解決に貢献します。
自分の専門スキルや知見を、一緒に働く相手 (同僚や上司) 、お客さん、ひいては世の中への価値提供につなげます。
3. 信頼獲得
データ活用での3つ目の壁はマネタイズ (収益化) でした。
個人に当てはめる場合にはお金を稼ぐことに加え、信用蓄積と信頼獲得と見立てます。機会を発見しソリューションにつなげて終わりではありません。たとえ目に見えず数字にならなくても、相手からの信頼につなげられるかです。
スキルは持っているだけではなく、価値提供と信頼獲得までもっていきたいです。
今日のアクション
そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。
このレターで残しておきたい問いは、「あなたが持っている資産をどのように価値に変えますか?」 です。ここで言う資産とは、レターの最後で見たような 「専門スキル」 「知見」 「経験」 です。これらはあなただけが持っている貴重な資産なんです。
データの価値化で見たように、機会発見、ソリューション (誰かの役に立つ) 、収益化や信頼獲得につなげてみませんか?
今週の YouTube
レターでご紹介したデータの価値化の例は Google でした。
関連してセールスフォースがどうやってデータを価値に変えたかを解説した動画です。ビジネスモデルという視点で掘り下げています。
よかったらぜひ見てみてください。
セールスフォースのビジネスモデルを独自視点で解説
レター作成者
多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら)
主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください
経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。京都大学大学院 工学研究科 修了。
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