#38 マーケティング話。「強み」 と 「強みの源」 を SDGs なボールペンのヒット理由から学ぼう

[レター概要] 環境に配慮したボールペンを取り上げ、ヒット理由を解説します。後半では強みと、その強みを実現している 「強みの源」 にフォーカスを当てます。一緒にマーケティングを学んでいきましょう!
多田 翼 2021.08.12
誰でも

こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

今回はマーケティングです。

このレターからわかる内容は、

  • 環境に配慮した SDGs なボールペン

  • 3つのヒット理由

  •  「強み」 についてのマーケティング的な考察

  • 「強みの源」 を持つ重要性


では早速、ヒット商品のボールペンについて見ていきましょう。

SDGs なボールペン

今回取り上げたいのはパイロットの油性ボールペンです。名前は スーパーグリップ G オーシャンプラスチック です。

引用: <a href="https://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/oil_based/ocean_plastic/">パイロット</a>

引用: パイロット

特徴を一言で言うと、ボールペンの素材に海洋プラスチックごみを使っています。

海洋プラスチックとは、海に流れ込んでしまったペットボトルや包装容器などのプラスチックごみです。回収したプラスチックごみをリサイクルし、ボールペンの素材に再利用しています (パイロット社からのニュースリリースはこちら) 。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチックを紹介した日経 MJ の記事には、次のように書かれています。

パイロットコーポレーションは2020年12月、海洋プラスチックごみ由来の樹脂を使ったボールペン 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」 を発売した。

処分のあてがないごみをペンに再生させる取り組みだ。環境対応に取り組む企業からの法人注文のほか、個人の消費者からも人気を集めている。

3つのヒット理由


ではここからは、スーパーグリップ G オーシャンプラスチックがヒットした理由を掘り下げてみます。次の3つです。

マーケティング視点でのヒット理由

  • 二階建ての 「選ばれる理由」 

  • 買いにくさを出さない価格設定

  • 他社に真似されにくい価値の源泉


では順番に見ていきましょう。

[ヒット理由 1] 二階建ての 「選ばれる理由」 

そもそもの話になりますが、マーケティングとは何かです。

これは私の一言の定義で、マーケティングとは 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 です。選ばれるとはお客さんに買ってもらえたり、使ってもらえることです。

選ばれる理由は、二階建てのように捉えると良いです。

二階建ての 「選ばれる理由」 

  • 一階: 最低限で満たすべき基本的な要素。ボールペンで言えばペンとしての機能や使いやすさ

  • 二階: プラスアルファでの付加価値


二階部分の 「付加価値」 をスーパーグリップ G オーシャンプラスチックに当てはめれば、海洋プラスチックごみを再利用したエコな商品であることです。今っぽい表現をすれば SDGs なボールペンです。

海のイメージに合わせた淡いブルーのデザインも好評の理由です。

引用: <a href="https://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/oil_based/ocean_plastic/">パイロット</a>

引用: パイロット

選ばれる理由の一階部分は基本的な性能で他社のボールペンと大きく差はつけにくいですが、二階部分で独自性を出せれば比較優位にできます。

[ヒット理由 2] 買いにくさを出さない価格設定

ヒットした要因の2つ目は価格設定にあります。

スーパーグリップ G オーシャンプラスチックは、スーパーグリップ G の他のシリーズと同じ価格で110円です。

通常、エコの要素が入っている製品は原材料が異なったり製造工程に工夫がいるため、コストが高くなりがちです。その分だけエコ商品の値段が、エコではない商品より高くなります。

しかしスーパーグリップ G オーシャンプラスチックは、同シリーズの中で同じ110円で価格です。

この価格設定はうまいと思っていて、消費者が 「エコで良いけど普通のより高いから買うのはやめよう」 と思ってしまうような買いにくさを生まないようにしています。購買への心理的ハードルを下げているわけです。

[ヒット理由 3] 他社には真似されにくい価値の源泉


スーパーグリップ G オーシャンプラスチックの独自化要素 (比較優位) は、商品名にも入っている通り 「海洋プラスチックごみを再利用して素材に使っていること」 です。

ここで考えたいのは、このアプローチは他社がすぐに真似できてしまうかです。というのは、もし他でも簡単にできればすぐに類似商品が発売され、他社からの独自性がなくなってしまいます。

私は、以下の2つの理由から他社には簡単に真似されにくいと考えます。先ほど引用した日経 MJ の記事からですが、

真似されにくい価値の源泉

  • テラサイクル社との協業

  • 海洋プラスチックごみの最適配分の技術

それぞれの補足

1つ目の 「テラサイクル社との協業」 は、テラサイクルジャパンが日本で回収したプラスチックごみを使用しています。プラスチックごみという 「原材料」 を調達するパートナーがいることが独自化の源泉です。

2つ目の 「海洋プラスチックごみの最適配分の技術」 についてです。

海洋プラスチックは海に流れ込んだごみで、海水や日光にさらされています。原料としての品質は良くはなく、問題はさらされ状況が様々なので品質にバラツキがあります。これが意味するのは、原料の品質にバラツキがあるのに、製造するボールペンの品質は一定にしなければいけない難しさです。

パイロット社は、材料を最適に配合できる独自ノウハウを試行錯誤を重ねて確立しました。ここは、他社は簡単には真似できないことです。少なくともやろうとすれば時間がかかります。

以上からスーパーグリップ G オーシャンプラスチックは類似商品が出にくく、エコなボールペンという独自のポジションに居続けられます。

***

ここまで、海洋プラスチックを使ったボールペンのヒット理由を見てきました。商品やサービスがヒットするとは、それだけ使う人にとって提供価値があるからです。提供価値は強みとも言い換えられます。

ではここからの後半は、「強み」 について見ていきましょう。

ちなみにここまででちょうどレターの半分くらいです。もし時間がなさそうなら、このあたりで切りがいいのでまた戻って続きをぜひ読んでみてください!

強みとは何か


強みとは相手から自分 (たち) が選ばれる理由です。

この話を仕事に当てはめてみます。例えば、他部署の X さんからデータ分析の依頼があったとします。

実は X さんの頭には依頼する候補として、自分 (あなた) 以外に社内の A さん、B さんがいました。この状況で、自分が選ばれた理由は何なのかです。これこそが、A さんと B さんに対して自分が持っている比較優位なことで 「強み」 です。例えば、

データ分析の強み (例) 

  • データ分析での集計が早く、複雑な集計処理ができる

  • 分析の前に問題に立ち返り、問題設定から適切な分析方法に落とし込める

  • 集計された結果から深い示唆を出せる

  • 意思決定やアクションへの提言までまとめ、読みやすいレポート作成ができる

  • メッセージの返答忘れがなく、返すのが早い



 「強みの源」 は何か


自分 (たち) の強みを掘り下げるにあたって大事なのは、強みの源は何かです。すぐに他人に真似されてしまう強みなのか、それとも希少性があり簡単には真似ができないものなのかどうかです。

先ほどのデータ分析の例を続けると、例えば自分の強みが 「データ分析でのデータ処理や集計の早さ」 だとします。この強みの源は、次のようなことが考えられます。

データ集計の早さの源泉

  • 日頃から社外の勉強会に参加している (人脈という資産構築) 

  • 常に最新情報・技術に明るい (向上心や探究心からの知見獲得) 


一方で、集計の早さは単に慣れからで、誰でも一定の経験を積めば到達できてしまうのであれば、独自の源泉に支えられた強みとは言えません。一時的には源泉になりますが、特別な経験でない限りは強固な資産とはならないからです。

強みとそれを支えている源泉に一貫性があり、かつ持続的なものになっているかが大切です。

今回の前半で見たボールペン 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」 とつなげると、強みの源は次の2つで、考察したように提供価値につながり持続性もあります。

真似されにくい価値の源泉

  • テラサイクル社との協業

  • 海洋プラスチックごみの最適配分の技術



最後に

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は 「スーパーグリップ G オーシャンプラスチック」 という海洋プラスチックを再利用したボールペンのヒット理由を分析しました。海洋プラスチックという原材料調達をテラサイクルジャパンにアウトソースしました。パートナー関係により他社には実現できない強みの源になりました。

レターの後半では強みについて掘り下げました。今回のレターで一番言いたかったことは、「強みの源」 です。強みの源とは、その強みは何によって実現しているかで、源泉がない強みは一過性のものです。自分たちにしかできない独自の源泉によって強みができていれば、他者 (他社) には真似できない強みになります。

この考え方は企業や商品・サービスだけではなく、個人のレベルにも当てはまります。具体的にはビジネスキャリアや働き方です。仕事でのまわりやお客さんへの提供価値を 「強み」 と見立てれば、その強みの源は何かです。この問いはご自身のキャリアを考える時に、着想を広げてくれます。

よかったら自分の強み、強みの源をセットで考えてみてください!

***

今週のおすすめ本

今回のキーワードは 「強みの源」 でした。

この本のメッセージはシンプルで、「ビジネスモデルの見えない部分にこそ、儲ける仕組みの源泉がある」 です。見えるビジネスモデルの構築だけでは不十分で、コスト構造と競争構造という 「見えない部分」 で、他社を寄せつけない持続的な仕組み大事、というテーマで書かれています。

事例の多くは日本企業のもので、各事例から見えない部分は何かを一般化し解説しています。今回のレターにもつながり、おすすめです。よかったら読んでみてください!

今週の YouTube

強みと弱みの分析、関連しての競合分析について解説している動画です。

強み分析では、お客にとっての価値、つまり自社商品やサービスを使うことによってお客が得ているベネフィットやうれしさは何かという視点で分析を進めます。

参考になればと思い、共有します。

 「強み弱み分析」 「競合分析」 のポイントを解説

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。京都大学大学院 工学研究科 修了。

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