#41 マック CM の 「悪魔のささやき」 。CM の狙いをマーケティング視点で解説

[レター概要] マクドナルドの50周年 CM の淡い恋物語と幸せな家族ストーリーの裏にあるメッセージを、マーケティングの観点から紐解きます。「悪魔のささやき」 の背後にはどんな意図があるのでしょうか?
多田 翼
2021.09.02
誰でも

こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

今回のレターはマーケティングです。

レターを読んでいただくとでわかることは、

  • 日本マクドナルドの50周年 CM
  • CM のあらすじと見どころ
  • マクドナルドの提供価値
  • 訴求している裏メッセージ (悪魔のささやき) 
  • マーケティングの顧客インサイト
  • おすすめのマーケティングの本


ては、マクドナルドの50周年 CM と、裏側にどんなメッセージが込められているかを一緒に見ていきましょう。

マクドナルドの50周年 CM

今回取り上げるのはマクドナルドの CM です。今年2021年は マクドナルドが日本に上陸して50年になります。

以下はマクドナルドの50周年 CM の動画です。


CM のストーリー

CM の舞台は1971年の銀座の歩行者天国です。あどけない少女 (中学生?) が男の子とマクドナルドでデートをしています。女の子はとても緊張していて、男の子から渡されたビッグマックを食べることができません。

男の子から 「食べないの?」 と言われますが、女の子はそれでも最後までビッグマックを口にすることはなく、せっかくのデートが気まずい雰囲気のままです。最後は男の子は 「じゃあね」 と去ってしまいます。どこか淡い恋物語をイメージさせるシーンです。

CM の後半は50年後の現在に変わり、少女は婦人になり孫の男の子とマクドナルドで食事をしています。孫が 「なぜ食べなかったの?」 と訊くと、「だって好きな人の前で恥ずかしくて食べられないじゃない。こんなでっかいの」 と答え、次に 「じぃじ (夫であるおじいちゃん) の前なら全然平気。なんでだろ」 と笑いながらビッグマックを食べるシーンが描かれます。

孫の男の子は心の中で 「そうか、もしビッグマックがもっと小さかったら今の自分はいないかもしれない (おばあちゃんとおじいちゃんは結婚していなかったかもしれない) 」 とつぶやきます。

CM は最後はおじいちゃんと孫娘が合流し、祖父母と男の子と女の子の孫の4人でマクドナルドで楽しく食事をするシーンで終わります。

CM の見どころ

マクドナルドの50周年 CM は、前半部分が1971年です。日本にマクドナルドが登場した年です。

CM では当時の銀座の雰囲気、ファッションや髪型もが忠実に再現されているのが興味深いです。高度成長の時代が描かれ、勢いがあり元気な銀座の様子が、デートでの気まずさを際立たせています。

***

ではここで、ちょっと話を変えますね。

マクドナルドの50周年 CM に込められたメッセージを掘り下げていきたいのですが、マーケティングからの補助線を引いてみます。マーケティングの用語で 「顧客インサイト」 と呼ばれるものです。

顧客インサイトを見てから、もう一度マクドナルドの CM に戻ります (マーケティングの話なので、ここを読み飛ばしてもらってマックの後半パートに行っていただいても OK です) 。

顧客インサイト


顧客インサイトとは、一言で言えば 「人を動かす隠れた気持ち」 です。

隠れているというのがポイントで、お客さん自身も普段は意識していませんが、そうだと気づかされれば行動につながる気持ちです。行動とは、買う・使う・来店するなどで、顧客インサイトは時にはお客の習慣すらも変えるほど奥にある本音です。

インサイトではないもの

もう少し話を続けると、インサイトのイメージを深めるために、「インサイトでないもの」 と比べると理解が深まります。具体的には次の3つです。

顧客インサイトとは

  • 顕在的ニーズではない
  • 不満ではない
  • 建前や意見・考えではない


順番に補足しますね。

1つ目は 「顧客インサイト」 と 「ニーズ」 との区別です。インサイトとニーズの共通点は、人の気持ちです。どちらも、人の行動につながります。

一方で違いがあり、顕在化されたニーズは本人が明確に認識している欲求です。それに対して顧客インサイトは、普段は隠れて意識されていない奥にある気持ちです。

2つ目は、顧客インサイトは顕在化した不満とも異なります。人がすでに意識している不便に思うこと、不都合、不安、不快感などの気持ちはインサイトではありません。日頃から感じている不満はインサイトではなく、人から言われたり見せられて初めて 「そう言われてみれば不満かも」 となる、無意識だった感情が意識されるレベルになるものがインサイトです。

3つ目は、顧客インサイトは表向きの建前や意見・考えではありません。

例えば、アンケート調査で回答者が書いた答えそのもの、インタビュー調査で調査対象者が直接語ったことはインサイトではないです。インタビューやアンケートで訊かれ、人が考えて話したり記述できる内容は、無意識のレベルではないからです。

顧客インサイトは、アンケート回答情報やインタビューでの発言から、その背後にある隠れた気持ちとして、ビジネス側 (例: マーケター) が見出すものです。

***

では、再度マクドナルドに話を戻します。

ここまでのマーケティングでの顧客インサイトを踏まえ、CM に込められたメッセージを掘り下げていきましょう。私は、「悪魔のささやき」 が入っていると捉えました。

マクドナルドの提供価値


取り上げたマクドナルドの50周年 CM は、見る人のどんな奥にある気持ちや本音を刺激しているのでしょうか?

淡い恋物語で始まり、最後は微笑ましい家族ストーリー (祖父母と孫のマックでの食事) で終わりますが、背後には人の欲望を刺激するメッセージが込められています。一言で表現すれば 「マクドナルドのハンバーガーをたまに無性に食べたくなる欲望」 に訴えかけています。

マクドナルドの提供価値の1つ、別の表現をすれば何をしたくてマックに行くかと言うと、「今日だけは節制せずにハメを外してハンバーガーをおもいっきりかぶりつきたい」 からです。ある意味で自分への裏切りで、(普段は節制している) 自分に背く行為です。

マックのメニューの中でもとりわけビックマックはその典型です。

ヘルシーな和食や野菜中心の食事が健康に良いのは頭ではわかっていますが、心はカロリーが高いビッグマックを口いっぱいに開け、ガブッとかぶりつきたい気持ちをどこかに持っています。人は誰しもが持っているこの気持ちに応えるのがマクドナルドの価値です。

CM の 「悪魔のささやき」 

マクドナルドの50周年 CM に登場するのが普通のハンバーガーやチーズバーガーではなく、あえてビックマックをメインにしている理由がここにあります。

表面的にはビッグマックは、CM のストーリーで好きな男の子の前で主人公の女の子が恥ずかしくて食べられないものとして描かれています。しかし、それ以上に意味を持たせていると思うのは、「かぶりつきたくなる今日だけは無性に食べたくなる象徴」 としてのビッグマックです。

CM で間接的に伝えているメッセージは、「久しぶりにマクドナルドに来て、お腹いっぱいになるまでビッグマックにかぶりつきませんか?」 という悪魔のささやきなのです。

奥には CM を見る人の顧客インサイト (人を動かす隠れた気持ち) があります。ここで言う隠れた気持ちとは、普段はそうは思っていない感情で、今回の例で言えばビッグマックを無性にかぶりつきたくなる欲望のことです。しかし CM を見てそうだと気づかされれば、無性にマクドナルドに行って食べたくなる奥にある本音・生々しい気持ちなのです。

この顧客インサイトという人の琴線、心のホットボタンをつく狙いが、淡い恋物語や家族でのマクドナルドでの楽しい食事シーンの CM の裏に込められています。

***

過去レターのご紹介

今回のレターは41回目ですが、過去に広告の見方について書いていました。

tsubasatada.theletter.jp

名作 CM から、次のようなマーケティング力を鍛える方法をご紹介しましたが、今回のレターにも関連するので、よければこちらから読んでみてください。

マーケティング力を鍛える広告の見方 (着眼点) 

  • ターゲット顧客: 誰向けの広告なのか
  • 提供価値: 広告をしている商品やサービスの魅力は何か
  • メッセージ: 提供価値がわかりやすいメッセージになっているか

今週のおすすめ本

今回のレターではマーケティングの顧客インサイトを取り上げました。関連してインサイトについてわかりやすく書かれた本をご紹介します。

本のタイトルは ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚 - インサイトのシンプルな見つけ方 (大松孝弘, 波田浩之) です。

本の内容を一言で言えば、顧客インサイトが書かれています。

キーワードは 「無自覚な不満」 です。無自覚な不満から、顧客インサイトとは何か、どうやって見出すかをわかりやすく学べます。「無自覚な不満」 を起点にして顧客が本当に欲しいもの (インサイト) を見つけるフレームワークが紹介されています。

今回のレター内容ともつながるので、よかったらぜひ読んでみてください!

ほんとうの欲求は、ほとんど無自覚 - インサイトのシンプルな見つけ方 (大松孝弘, 波田浩之) 

***

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。

#44 イノベーションを解説。50年もロングセラーであり続けたカップヌードルというイノベーション
[レター概要] 1971年に生まれたカップヌードルの開発秘話から、イノベーションの本質を掘り下げています。イノベーション...
誰でも
#43 初心者へのマーケティングを解説。ヒカルの碁とシニア女性に学べること
[レター概要] お客さんを増やすには新規顧客の獲得が大切です。新規客は商品・サービスの 「初心者」 です。漫画 「ヒカル...
誰でも
#42 常識を変えたマーケティング5選。「その手があったか!」 な事例...
[レター概要] 誰も疑問に思わず、当たり前のように存在する固定観念は、ひっくり返されれば大きなインパクトをもたらします。...
誰でも
#40 自分の強みを見つけ活用する方法。カップヌードル50周年コラボか...
[レター概要] 今回は 「強み」 からマーケティングや戦略の話、後半ではビジネスキャリアにも着想を広げていきます。具体的...
誰でも
#39 DX 解説 - バズワードに踊らされないために本質を理解してお...
やや煽るようなタイトルにしましたが、DX 本質とポイントを具体例から解説しています。DX のおすすめ本のご紹介と You...
誰でも
#38 マーケティング話。「強み」 と 「強みの源」 を SDGs な...
[レター概要] 環境に配慮したボールペンを取り上げ、ヒット理由を解説します。後半では強みと、その強みを実現している 「強...
誰でも
#37 無理なく習慣にする方法を7つご紹介 (+ 習慣化のおすすめの本...
[レター概要] 習慣化の方法7つは、① 目的を持つ, ② 一度に複数を習慣化しない, ③ ベイビーステップ, ④ やるタ...
誰でも
#36 コロナ禍の逆境を跳ね返したお菓子。ヒット商品のマーケティング解...
[レター概要] 弱みを解消し、強みを伸ばした身近な2つのヒット商品から、マーケティングの観点で学べることを解説します。
誰でも