#15 ドリルとシェイクの奥にあるマーケティングを見てみよう

ドリルやミルクシェイク、YouTube の事例から、マーケティングで大切な 「顧客インサイト」 を解説しています。
多田 翼
2021.03.04
誰でも

こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。

今回はマーケティングです。

書いている内容は、

  • そもそもマーケティングとは何か
  • マーケティングで大切なこと
  • ジョブ理論 (マーケティング理論) 
  •  「ドリルではなく穴」 への違和感の正体 (本当に望んでいること) 
  • 本質理解の三階層


マーケティングについて興味を持ってもらえたり、1つでも気づきにつながればうれしいです。

ぜひ最後まで楽しみながら読んでみてください!

マーケティングの本質


もし 「マーケティングとは何か」 と聞かれれば、どんなイメージがありますか?

私の一言の定義は、マーケティングとは 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 です。

選ばれるとは、買ってもらえる・使ってもらえる・来店される・指名されるです。

大事なのは顧客からいかに選ばれるか、そして選ばれ続けるかです。新しく選ばれれば新規顧客、2回目以降も選ばれればリピート顧客になります。

選ばれるのを偶然に頼るのではなく、意図的に高め必然的に選ばれるようにするのがマーケティングの役割です。

顧客理解の重要性

では、マーケティングでやることの中で、最も大切なことを1つ挙げるとすれば、何だと思いますか?

あえて1つだけ選ぶとすれば、私の答えはマーケティングで最も大切なのは 「顧客理解 (人間の本質理解) 」 です。

先ほどのマーケティングの私の定義の 「顧客から選ばれる理由をつくる活動全般」 に立ち返ると、選ぶという行為の主体者は顧客ですよね。顧客から選んでもらうために重要なのは、顧客がどのように選んでいるのか、なぜ選んでくれるのかの理解です。

***

マーケティングの 「ジョブ理論」 


ここで1つご紹介したいマーケティングの考え方があります。ジョブ理論です。

ジョブとはもともとの英語では Jobs to be done で、日本語では顧客や消費者が 「済ませたい用事」 や 「片付けたい仕事」 と訳します。

マーケティングでよく言われることに、「お客が買ったのは 1/4 インチのドリルではなく、本当に欲しかったのは 1/4 の穴である」 という言葉があります。

People don't want to buy a quarter-inch drill. They want a quarter-inch hole.


元ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授の故セオドア・レビットの言葉です。お客が欲しかったのはドリルという商品ではなく、やりたかったのは壁に穴を開けることです。「穴を開ける」 という済ませたいことがジョブに当たります。

ジョブ理論の事例 (ミルクシェイク) 

ではジョブ理論を具体的な話に当てはめてみます。

ジョブ理論を提唱したのは故クレイトン・M・クリステンセンです。クリステンセンは、「イノベーションのジレンマ」 や 「破壊的イノベーション」 を提唱したことでも有名です。クリステンセンはジョブ理論の説明にミルクシェイクの事例を使っているので、ご紹介しますね。

ミルクシェイクの売上を伸ばすためには、味を変えるのか (例: フレイバーを増やす) 、価格を下げるのか、それともサイズを大きくするのかといったアプローチが考えられます。

クリステンセンによれば、そのクライアント企業のミルクシェイクがよく売れた時間帯の1つは、平日の朝でした。

実際に店舗に出向き、店頭で観察したり購入者にインタビューをしてみると、ミルクシェイクを買っていた人は自動車通勤をする労働者でした。彼らは通勤のために毎朝1時間や2時間の運転をしており、ミルクシェイクは運転中に好まれていました。

では、なぜミルクシェイクは買われたのでしょうか?

ミルクシェイクが買われた理由

ミルクシェイクが買われたのは、以下の3つからでした。

ミルクシェイクが買われた理由

  • 運転中に手軽に食べられる (片手で持てハンドル操作に支障がない、ボトル入れに置けるカップサイズ) 
  • 全部飲み終わるのに時間がかかり、長時間の通勤に適している
  • 腹持ちがよい


ちなみにミルクシェイク以外の候補は、バナナ、ドーナツ、ベーグルでした。

しかし、バナナはすぐ食べ終わってしまう、ドーナツやベーグルは手やハンドル、車内が汚れるといった理由から、ミルクシェイクが選ばれていました。

ミルクシェイクが買われた理由をジョブ理論に当てはめると、ミルクシェイクは 「運転中に済ませたい最適な食事」 というジョブを最も的確に解決していたのです

***

もう一度 「ドリルと穴」 の話


ここで先ほどご紹介したドリルと穴の格言 「お客が買ったのは 1/4 インチのドリルではなく、本当に欲しかったのは 1/4 の穴である」 に話を戻します。

この言葉が意味するのはドリルはあくまで手段であり、顧客の本当のニーズを知ることの重要性です。

格言で顧客ニーズにしているのは、「穴を開けたい」 です。ドリルの売り手からすると、お客に買って欲しいのは自分たちが製造したドリルです。ドリルが買われるごとに、売上と利益が得られます。

格言が教えてくれるのは 「売り手と買い手の認識のギャップ」 です。売り手はドリルを買ってもらっていると思いますが、顧客が買っているのは穴を開ける手段であり、本当にやりたいことは穴を開けることです。

格言が言おうとしていることはその通りです。しかし一方で、私はこの格言に違和感を感じます。

格言への違和感

私が感じる違和感とは、顧客がやりたいのは 「穴を開けること」 としている点です。

顧客が望んでいるのは、穴を開けることなのでしょうか?

先ほどドリルは手段であると書きましたが、穴を開けることも手段です。つまり、穴を開けた先に最終的な顧客の望みがあるはずです。

では本当の顧客の望みとは何でしょうか?

穴を開けた先にあるもの


例えば、DIY のガーデニングの棚を作りたいケースで考えてみましょう。

ドリルでネジ用の穴を開けるのは、棚を作るためです。顧客のニーズは庭に合う自作の棚です。

もっと先を見据えれば、休日の晴れた日にガーデニングを楽しんだり、季節ごとに咲く花や実になる果実を眺めて、四季折々の自然を身近に感じることです。棚すらも、これらの手段です。

穴よりももっと先に何があるかを掘り下げることによって、顧客が求めていること、あるいは顧客自身が気づいていない不満や欲求にまでマーケターは想いを馳せられるかです

奥にある顧客インサイト

ここで少しマーケティングの専門的な話に入ります。なるべくわかりやすく伝えられるように書いていきますね。

顧客本人が気づいていない気持ちは、マーケティングでは 「顧客者インサイト」 と言います。

顧客インサイトとは 「人を動かす隠れた気持ち」 です。普段は本人も自覚していませんが、そうだと気づかされれば買うなどの行動につながる奥にある本音です。

ドリルと穴の話に当てはめれば、穴を開けたい気持ちは顧客インサイトではありません。すでに顕在化しているニーズです。

言われて初めて本人も気づく気持ちである 「顧客インサイト」 に相当するものは例えば、

  • ガーデニングの棚を自分で作った時に得られる充実感や自分自身への誇り
  • 棚に置かれた植物の成長を見守る我が子を愛するような気持ち
  • 季節の移り目を自宅で身近に感じたい
***

本質を捉える三階層フレーム


ここまでの内容でお伝えしたいことをまとめると、マーケティングでの深い顧客理解の重要性です。顧客自身も普段は気づいていない自分の奥にある本音まで理解できるかです。

ここから着想を広げて、ものごとの本質を捉えるためにはどうすればいいかを考えてみましょう。

本質を捉えるためには、次のフレームが使いやすいです。

本質を捉えるためのフレーム

  • 事象
  • 構造
  • 本質


1つ目の事象とは、表面的に起こっていて見えるものです。例えば、問題によって引き起こった結果です。

事象の裏には、2つ目のレイヤーとして一見すると見えない 「構造的な要因」 があります。事象を起こすメカニズムです。

さらにその奥には、構造をつくっている 「本質」 があります。3つ目のレイヤーです。問題の例に当てはめれば、問題の根本的な原因です。

このフレーム 「事象 - 構造 - 本質」 の視点でものごとを見ると、何が本質なのかを考えることができます。

マーケティングへの応用 (消費者理解の本質) 

フレームワーク 「事象 - 構造 - 本質」 を、マーケティングに当てはめてみます。

繰り返しになりますが、マーケティングで大事なのは顧客理解です。

消費者理解のために 「事象 - 構造 - 本質」 が活用できます。3つはそれぞれ以下のようになります。

顧客理解の三階層

  • 事象: 行動 (来店した, 買った, 利用した) や発言
  • 構造: 行動の原動力になっている顕在化しているニーズ
  • 本質: 顧客インサイト (人を動かす隠れた気持ち (本人も気づいていない潜在的な本音) )  


目に見える顧客の行動や直接聞ける発言だけでは、顧客理解には十分とは言えないんですよね。行動や発言の裏にはどんなニーズや不満があるかです。

ただし、ニーズは消費者の買いものなどの行動に根本的な影響を与える要因ではありません。顧客理解の本質は行動やニーズの奥にある 「顧客インサイト」 です。

では、顧客理解の三階層を具体例に当てはめてみましょう。

YouTube ユーザーの顧客インサイト


私が Google の時に YouTube のマーケティングで関わった経験からです。

当時 YouTube へのグローバルプロジェクトで日本から参加していました。プロジェクトの目的は、

  • YouTube ユーザーを深く理解する
  • ユーザーインサイトに基づくマーケティング施策を広告主と広告会社に展開する
  • YouTube 広告をより活用してもらう


プロジェクトでは、YouTube 利用者をあらためて理解するために、直接のインタビュー調査をしました。私は全てのインタビューの場に立ち会いました。

インタビュー中にある女性の対象者の方がふと口にした言葉がありました。今でもよく覚えていて、「やることがなくなったら YouTube を見ている」 でした。

インタビュー対象者の発言だった 「やることがなくなったら YouTube」 の真意は、忙しかった1日でやるべきことを全部終えてからの寝る前の時間における、「最後の楽しみとしての YouTube 」 だったのです。ディナーに例えるならデザートです。

対象者の方は、平日の夜は次のような過ごし方をしていました。仕事から帰り晩ごはんを食べ、入浴や肌の手入れ、スマホでのチャットや SNS などの様々なやることを終え、後はもう寝るだけという時になって YouTube を見るという過ごし方です。

1日の終わりに YouTube を見る時は、自分を飾ることなく素の自分でいられ、ようやく身も心も解放された自分だけの時間です。

この時にリラックスして YouTube を自分の好きなように楽しんでいました。

この事例を顧客インサイトを理解する三階層 (事象, 構造, 本質) に当てはめてみます。

YouTube 利用者の顧客インサイト

  • 発言: 「やることがなくなったら YouTube を見ている」 [事象]
  • ニーズ: 素の自分になりリラックスして、YouTube を好きなように楽しみたい [構造]
  • 顧客インサイト: 1日の最後に自分だけの大切な時間を充実させたい気持ち [本質]


YouTube の話はレターの第11回で書いています。よかったら読んでみてください。

tsubasatada.theletter.jp

今日のアクション

そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。

このレターの毎回に共通するコンセプトは 「Question Insights Action」 です。意味は、問いかけに対して示唆を得て (Insights) 、半歩でもいいので行動につなげてみませんか (Action) 、というものです。

今回のレターでの問いかけはマーケティングについてでした。

  • 相手が欲しいと言っている 「ドリル」 だけを見ていませんか? (背後にある 「穴」 は何ですか?) 
  • さらに奥にある 「顧客インサイト」 は何だと思いますか?
  • 例えば今の仕事で、本質までの三階層はそれぞれ何ですか (事象 - 構造 - 本質) ?


Action へのヒントは、

  • 自分が今見えていること・人から聞いたことが全てだと思わない。奥にあるまだ捉えていないものを見てみよう
  • 曖昧だったり漠然としたことは3つに分けて考えてみよう


今回のレターが読者のあなたの背中を少しでも支えたり、足を一歩踏み出すきっかけになればうれしいです。

いただいた質問への回答

質問箱への回答コーナーです。

今回は4つです。

  • おもしろいと思うビジネスモデルは?
  • 資産運用は何をしている?
  • マーケティングの原体験は?マーケティングの仕事でうれしい瞬間は?
  • 今一番ハマっていることは?

[質問 1] おもしろいと思うビジネスモデルは?

おもしろいと思うビジネスモデルを3つ回答しました。

  • 楽天のポイント経済圏
  • 音声メディアのマネタイズ
  • コンテンツのブロックチェーン実装による利用権の価値化


回答内容の詳細はこちらです。よかったら読んでみてください。

[質問 2] 資産運用は何をしている?

運用している対象は主に以下です。全て毎月に定額で自動積立をしています (ビットコインのみ手動で買い付けです) 。

  • インデックス投信 (先進国, 新興国) 
  • アクティブ投信 (ひふみ (日本, 米国) ) 
  • NISA (インデックス投信の先進国と新興国, ひふみ (米国) ) 
  • ロボアドバイザー (WealthNavi) 
  • 暗号資産 (ビットコイン) 
  • 確定拠出年金 (インデックス投信の先進国と新興国, ひふみ (日本) ) 


回答の詳細はこちらです。

[質問 3] マーケティングの原体験は?マーケティングの仕事でうれしい瞬間は?

私がマーケティングに強く興味を持ち、これを仕事にしたいと思ったのはある1冊の本からでした。本のタイトルは 実況 LIVE マーケティング実践講座 です。人生を変えた1冊です。

大学生の時で、当時は京都にいて就活中でした。私のマーケティングへの出会いと、そこからつながっている今のマーケティングの仕事でのうれしい瞬間をご紹介しています。

詳細はこちらです。

[質問 4] 今一番ハマっていることは?

今一番ハマっていることを一言で言うと 「朝飯前」 です。

朝起きてから朝食までの4時間の間で、自分が大事にしたいと思っていることをやりきれるかのタイムマネジメントを、自分だけのゲームのように楽しんでいます。

具体的な内容の詳細は、よければこちらから読んでみてください。

質問・リクエストを募集しています

もしご質問やリクエストがありましたら、こちらの匿名の質問箱にぜひコメントください!

peing.net

  • 疑問に思ったこと
  • 訊いてみたいこと
  • 自分なりの理解や解釈
  • レターへのリクエスト


いただいたご質問やリクエストはレターでも取り上げられればと思っています。

ぜひ質問・リクエストを教えてください!

レター作成者

多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら

経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。

主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください

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