#9 キャリアは計画する?運任せ?オリジナルキャリアのつくり方
メールを開いていただきありがとうございます。
今回のレターは2つのテーマの掛け合わせです。戦略とキャリアです。
戦略では Google のビジネスを例に2つの戦略をご紹介します。後半のキャリアでは、スティーブ・ジョブズの伝説的なスピーチも触れながらあなたにしかつくれないキャリアは何かを考えます。
ぜひ最後まで読んでいただき、お仕事やキャリアへの参考に少しでもなればうれしいです。よかったら感想や質問もあれば教えてください!
意図的戦略と創発的戦略
最初に戦略の2つ、意図的戦略と創発的戦略を取り上げます。
意図的戦略はもともとの英語は Planned strategy で、あらかじめ計画されてつくられた戦略です。これは戦略の一般的なイメージかなと思います。
一方の創発的戦略は英語では Emergent strategy です。Emergent のニュアンスは 「姿を現す」 です。
創発的戦略とは、最初は明確な方針はなくやってみてたらうまくいきそうだとわかり、後から戦略になったものです。
戦略から実行への流れで整理をすると、意図的戦略は 「戦略 → 実行」 です。創発的戦略の順番は 「実行 → 戦略 → 実行」 と、戦略の前に実行があります。その後に戦略がつくられ、戦略の実行に移します。
では創発的戦略の具体的な事例を見ていきましょう。
Google の検索サービス

創発的戦略の具体的な例は何かを考えた時に、Google の検索広告がそれにあたります。
まずは簡単に Google の検索についてご説明しますね。
Google が創業当時にやっていた検索サービスは収益を生んでいませんでした。
Google の検索の仕組みに 「ページリンク」 があります。ページリンクとは優れた論文は他の論文に引用される構造をヒントに、Web ページの世界へ応用したものです。品質の高い Web ページは他の Web ページにリンクがされていると見立てたわけです。
Google は ロボットに Web ページを巡回させて自動的に情報収集と整理をし、品質の高いページが検索結果の上位に表示されるようにしました。
検索広告という発見
先ほども触れたように、初期の時点では検索サービスは収益を生み出してはいませんでした。
検索サービス自体を有料とする選択肢もあったはずですが、Google はそれをしなかったわけです。
代わりにやったのは、検索結果ページに検索キーワードと関連性が高い情報が出る枠を用意しました。この枠を有料で企業に販売し、つまり検索に広告という仕組みを取り入れたのです。
この枠 (広告欄) に価値があるのは、そのキーワードで調べた人はニーズが顕在化していて、そうした人だけを狙って商品やサービスの宣伝ができるからです。検索結果に表示される機会がお金は払ってでも欲しいビジネスニーズだったのです。Google はここに金脈を見つけました。
やってみたら見事に当たり、今現在でも検索広告は Google に収益をもたらしています。
検索広告を 「創発的戦略」 から紐解くと
では Google の検索サービスと広告の話を、創発的戦略の観点から掘り下げてみましょう。
検索サービスを開発した時点では、広告から収益化できる戦略や計画はありませんでした。検索サービスは利用されていましたが収益化できず、ビジネスとしてはむしろ苦しい状況だったわけです。
後から検索連動型広告が生まれました。
創発的戦略の流れは 「実行 → 戦略 → 実行」 です。これに Google の検索広告を当てはめると、次のようになります。
Google 検索広告の創発的戦略
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検索サービスの仕組みを開発し提供した
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検索結果ページに有料表示枠 (広告の仕組み) をつくってみた
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検索した人に宣伝する機会はお金を払ってでも欲しいビジネスニーズだとわかった
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検索広告のビジネス化
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事業戦略がつくられ、本格的に実行された
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今でも検索広告は Google の収益を支えている
ビジネスキャリアの話

書籍 働くひとのためのキャリア・デザイン には、キャリア形成には 「デザイン」 と 「ドリフト」 という2つのアプローチが紹介されています。
キャリアのデザインとドリフトは、それぞれ次のような意味です。
キャリアの 「デザイン」
-
あらかじめ計画したキャリア
-
目標から逆算する
キャリアの 「ドリフト」
-
プランにはなかったもの
-
流れに身を任せるように、目の前の偶然の機会に乗ってみる
デザインとドリフトの両立
この本で書かれているのは、デザインとキャリアの両立です。
キャリアの節目では、自分のキャリアをしっかりとデザインをします。とはいえ常に自分のキャリアプランを考えていると息がつまりますよね。そもそも、キャリアが自分の計画通りに進んでいくことは起こりにくいものです。
そこで 「ドリフト」 です。ドリフトとは、偶然にもたらされた機会に乗っている、流れに身を任せるようにやってみることです。
デザインとキャリアの両立とは、キャリアの節目ではデザインをしますが、節目以外の時はあえてドリフトを取り入れます。ほどよいドリフトがキャリアの幅を広げてくれます。
2つの戦略とキャリア
一度ここまでの話をまとめますね。
最初に2つの戦略をご紹介しました。計画的な戦略から実行に移す 「意図的戦略」 と、やってみて時には偶然からもうまくいった行動から後から戦略になる 「創発的戦略」 です。
キャリアではあらかじめ計画して逆算する 「デザイン」 と、偶然の機会に乗り流れに身を任せるようにやってみる 「ドリフト」 です。
以上を俯瞰すると、意図的戦略はデザイン、創発的戦略はドリフトです。
点と点がつながる

後者の 「創発的戦略とドリフト」 について、もう少し掘り下げて見てみましょう。
創発的戦略は、やってみて時には偶然からもうまくいき後からできていく戦略でした。ドリフトは、偶然の機会に乗ってみて流れに身を任せるようにやってみる働き方やキャリアです。
いずれにも共通するのは 「点と点をつなげる」 という考え方です。今回の文脈に当てはめると、キャリアの文脈では過去の経験が、その当時は思いもよらなかったことに活かせることです。
点と点がつながるで有名なのが、故 スティーブ・ジョブズのスピーチです。
スティーブ・ジョブズから卒業生へのメッセージ
「点と点をつなげる」 は、スティーブ・ジョブズが2005年のスタンフォード大学の卒業式で語ったスピーチの中に入っています。
以下は、スピーチから該当箇所の引用です。
自分の興味の赴くままに潜り込んだ講義で得た知識は、のちにかけがえがないものになりました。たとえば、リード大では当時、全米でおそらくもっとも優れたカリグラフの講義を受けることができました。キャンパス中に貼られているポスターや棚のラベルは手書きの美しいカリグラフで彩られていたのです。
退学を決めて必須の授業を受ける必要がなくなったので、カリグラフの講義で学ぼうと思えたのです。ひげ飾り文字を学び、文字を組み合わせた場合のスペースのあけ方も勉強しました。何がカリグラフを美しく見せる秘訣なのか会得しました。科学ではとらえきれない伝統的で芸術的な文字の世界のとりこになったのです。
もちろん当時は、これがいずれ何かの役に立つとは考えもしなかった。ところが10年後、最初のマッキントッシュを設計していたとき、カリグラフの知識が急によみがえってきたのです。そして、その知識をすべて、マックに注ぎ込みました。美しいフォントを持つ最初のコンピューターの誕生です。
もし大学であの講義がなかったら、マックには多様なフォントや字間調整機能も入っていなかったでしょう。ウィンドウズはマックをコピーしただけなので、パソコンにこうした機能が盛り込まれることもなかったでしょう。もし私が退学を決心していなかったら、あのカリグラフの講義に潜り込むことはなかったし、パソコンが現在のようなすばらしいフォントを備えることもなかった。
もちろん、当時は先々のために点と点をつなげる意識などありませんでした。しかし、いまふり返ると、将来役立つことを大学でしっかり学んでいたわけです。
繰り返しですが、将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。
だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。
実際のジョブズのスピーチの動画はこちらです。日本語の字幕付きのものです。よかったらぜひ見てみてください!
点と点をつなげるために大切にしたいこと

ではここからは、後から点と点 (異なる2つの経験) をつなげるために、どうすればよいかを考えてみましょう。
普段からできることで3つあります。
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具体の抽象化を横展開する
-
前提を明確にする
-
どんな経験も無駄にはならないと考える
[方法 1] 具体の抽象化を横展開する
これは前回のレターでご紹介した方法です。
三段階のアウトプットとは、「具体 → 抽象 → 横展開」 です。

抽象化力を高める 「具体と抽象」
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ものごとを解像度高く具体化する
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具体を抽象化する
-
抽象化した本質を別の具体に落とし込む
ポイントは図の赤字で示しているように具体から本質を見出し、一度抽象化してから別の具体に当てはめます。
1つ目の事例 (具体) と、抽象化したことの横展開 (応用した先の具体) が、まさに点と点がつながった状態です。
普段から、異なる2つのものをつなげる意識を持っておくといいです。
例えば、何かを説明をする時にたとえ話を入れてみます。喩えや比喩はうまく使うと、聞いている側は自分に馴染みのあるもので喩えられると理解しやすいメリットがあります。説明する自分にとっても、たとえをつくる過程でより理解が深まります。
[方法 2] 前提の明確化
抽象化からの横展開で注意点があります。
最初の具体での前提を理解する重要性です。もし前提が違うと、そのまま横展開をしても上手く機能しません。
例えば、以前の仕事でうまくいったやり方を別の仕事でも使えるかどうかは、前の仕事での前提も考慮する必要があります。前提が同じ、または似ていれば新しい仕事に応用ができます。
大切なのは前提条件も踏まえた上で、何が機能し何がうまくいかないのかを見極めることです。
[方法 3] どんな経験も無駄にはならないと考える

自分がやったことは蓄積されるので、あらゆることが自分にとって無駄にはならないんですよね。この考え方が点と点をつなげるために大事だと思います。
どんな経験も無駄にはならないと考えれば、自ずと 「今」 を精一杯やりきることにつながります。
私が大切にしている考え方に、「これまでの "今" の積み重ねが今の自分をつくっている」 というものがあります。過去の全ての 「今」 が今の自分を形成していて、生まれてから死ぬまでの 「今」 を全て合わせると、それが自分の人生になるという考え方です。
経験という点を1つたりとも無駄にしない姿勢が、後から点と点がつながっていきます。その時々は単なる点だったのが、振り返れば星と星が結ばれ夜空の星座のように輝きます。
今日のアクション
そろそろ今回のレターも終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございます。
このレターでお伝えしたかったメッセージは、「時には計画にはないドリフトを楽しみ、点と点をつなげてみよう」 です。
戦略の考え方では、当初は想定されていなかったことがうまくいき後から戦略になる創発的戦略を Google の検索広告の例からご紹介しました。キャリアでもデザインとドリフトから、ドリフトの重要性を 「点と点がつながる」 という考え方と併せて掘り下げました。
キャリアでは、もっと言えば人生は後から振り返れば、あなたにしか通れなかった道ができています。その道は、その時々でのちょっとした一歩を勇気とともに踏み出したからなんです。
だからこそ、これからのあなたの道をつくっていくのは、今日からのアクションです。ぜひぜひ半歩でも一緒に踏み出してみませんか?
いただいた質問への回答
質問回答コーナーです。前回のレター配信の後に質問をもらっているので、ここでご紹介しますね。
今回は6つです。
いただいた質問
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人生や仕事の短中長期の目標は何ですか?
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サービス解約をしやすくすることの提供者側のメリットは (カスタマーサクセスの観点で) ?
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趣味は何ですか?
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ブランディングの仕事に携われる就職先はどこがいいと思いますか?
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普段見ている情報収集先は何ですか?
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本を読む頻度と、最近読んだ本のベスト5は?
[質問 1] 人生や仕事の短中長期の目標は何ですか?

目指すことを次の3つに分けて回答しました。
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人生
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会社 (Aqxis での事業)
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情報発信
詳しくは、よかったらこちらの回答を読んでもらえるとうれしいです。
[質問 2] サービス解約をしやすくすることの提供者側のメリットは?

サービス解約のユーザー体験向上は、サービス提供者側にとって次の3つの意味があると回答しました。
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再会員獲得の可能性を少しでも上げられる
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本当の離脱率の可視化と適切な施策実行
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ユーザー維持コストの減少
回答の詳細はこちらです。
[質問 3] 趣味は何ですか?

趣味として、また好きで続けているのは情報発信かなと思い、ブログを例に自分にとっての意味合いをご紹介しました。
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言語化と構造化の能力向上
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考えたことを言いたい
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行動のバロメーターになる
こちらが回答の詳細です。
[質問 4] ブランディングの仕事ができる就職先はどこがいいと思いますか?

就職先の相談をいただきました。
質問の 「ブランディングの仕事ができる就職先は?」 への具体的な回答に入る前に、前提をそろえるための切り口を2つを伝えました。
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ブランディングプロセスの中でどこに携わりたいか
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どの立ち位置で関わるか
2つの切り口から、以下の内容でお答えしました。
-
候補先への見解 (マーケティングリサーチ会社, 広告代理店, マーケティング施策支援会社, 事業会社)
-
もし自分ならどうするか
詳細はこちらです。
[質問 5] 普段見ている情報収集先は何ですか?

回答するにあたって、まずは普段のニュースなどの情報源を整理する切り口を考えました。
-
目からのインプット or 耳からインプット
-
ニュース (ファクト) or 意見
この4つのマトリクスでよく使っている情報収集の方法をご紹介しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
[質問 6] 本を読む頻度と、最近読んだ本のベスト5は?

本を読む頻度と、最近読んで特に印象に残っている5冊を紹介しました (リンク先は Amazon です) 。
-
スラムダンク (漫画ですが 笑)
詳しくはこちらをどうぞ。
質問・リクエストを募集しています
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レター作成者
多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら)
経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。
主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください
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