#34 あのヒット商品を分析解説。ヒットの秘密は 「◯◯ の拡大」 にあり
こんにちは。メールを開いていただきありがとうございます。
今回はいくつかの気になる商品をご紹介し、商品開発やマーケティングへの解説をします。
レターからわかる内容は、
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頑固な食器汚れ洗いを楽ちんにした洗剤
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ママの面倒と心配をなくしたベビーカー
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女性の罪悪感を払拭したカレー
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商品開発とマーケティングへの学び
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マーケティングのおすすめ本
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気になる商品 (新コーナー!)
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「あなたの答えはお客の中にある」 (YouTube)
個人的に注目する商品をいくつかご紹介し、ヒットの秘密から消費者の隠れたニーズやビジネスチャンスを見つける方式を書いています。「ヒット商品の理由を知りたい」 「自分の仕事の参考にしたい」 と思った方にお役に立てればと思います。
個人的な注目商品 (2つ)
[商品 1] キュキュット つけおき粉末
1つ目にご紹介したい商品は、花王の食器用洗剤 キュキュット つけおき粉末 です。
引用: 花王
商品名に 「つけおき」 とあるように、使い方は食器をぬるま湯に浸し粉末を混ぜておきます。すると鍋などの頑固なこびりつき汚れが簡単に落とせるようになります (参考記事: 花王公式サイト) 。
百聞は一見にしかずなので、花王の公式サイトの動画をよかったら見てみてください。
[商品 2] まるごと洗えるベビーカー
続けて2つ目に紹介したい商品は、Combi の 「Acbee (アクビィ) 」 のベビーカーです (公式サイト) 。
引用: Combi
特徴はシートが簡単に取り外せるので、丸ごと洗えることです。速乾素材を使っているので従来よりも乾きやすいとのことです。
Acbee の製品詳細ページによれば、ベビーカー利用者の 79% は 「ベビーカーの汚れが気になることがある」 と答えています。しかし、一度もシートを洗ったことがない人は 43% だそうです。理由は 「シートの取り外しが面倒」 「乾くのに時間がかかる」 でした。乾くのに時間がかかるので、その間は赤ちゃんと外出ができないので結局はシートは洗わないままになっています。
2つの商品の共通点
ここまで2つの商品、食器用洗剤 「キュキュット つきおき粉末」 と、丸ごと洗えるベビーカー 「Acbee」 をご紹介しました。
2つの商品の共通点は、利用シーンの時間軸を広く捉えて価値を提供したことです。
花王の 「キュキュット つけおき粉末」 は時間軸を 「前」 に引き伸ばしました。食器洗いの最中だけではなく洗う前に使ってもらい、洗う時にゴシゴシと力を入れて何度もこすり洗いをする手間をなくしました。
食器洗い利用シーンを 「点」 ではなく、時間軸を伸ばした 「線」 で捉えてトータルでの食器洗いの手間を少なくし体験価値を上げました。
もう1つの Combi の 「まるごと洗えるベビーカー Acbee」 は、ベビーカー利用中ではないベビーカーを休ませている時間での価値提供です。
小さい赤ちゃんを持つ親の気持ちとして 「シートを洗ったことがないので、清潔ではないかも」 と思いつつ、いざ洗うとなると手間がかかり、シートがすぐに乾かないので外出できない不便さを解消しました。洗いたいけど現実は洗えていない問題の解決です。
では、取り上げた2つの商品から学べることをさらに深めてみましょう。
商品開発やマーケティングへの学び
商品開発やマーケティングへのヒントは、商品やサービスの今の利用シーンを広げ、利用シーンの前後や使っていない時にビジネスチャンスがあります。
食器洗い洗剤のキュキュットは、スポンジで食器を洗う前にチャンス (利用機会) を発見しました。Acbee はベビーカーを使っていない時に起こる不衛生問題の解決と、赤ちゃんのために清潔なシートにしたいという想いを叶えました。
既存の利用シーン以外からビジネスチャンスを発見するためには、視野を広げてお客のことを観察し、理解することが重要です。利用シーンの 「点」 だけではなく、利用前後や使っていない時までの 「線」 へと捉え直し、新しい利用シーンから価値を生み出します。
ではもう1つ、利用シーンに注目したヒット商品をご紹介しますね。
ハウス 「やさしく夜遅カレー」
引用: NIKKEI STYLE
以下は NIKKEI STYLE の記事からの引用です。
ハウス食品によると、レトルトカレーの市場規模は14年度の508億円から19年度は612億円に伸長している。
主な購入層は40代以上の男性で、20 ~ 30代の購入者は少ない。特に女性は 「空白地帯」 だったという。そこを狙ったのが夜遅カレーだ。
ハウス食品で調理済みカレーの企画を担当する磯豪氏は、「手軽に調理できてヘルシーな商品であれば、若い女性にもアプローチできると考えた」 と開発意図を明かす。
レトルトカレーの主な購買層は40代以上の男性です。20 ~ 30 代の特に女性は少ない市場でした。
ハウスはここに機会を見出しました。20 ~ 30 代の女性に向けて、手軽に調理できるヘルシーであれば若い女性にアプローチできると考えたのが開発の背景です。
ターゲットシーンの明確化
ここから思ったことです。
ターゲット顧客をそれまでのレトルトカレーのメイン利用層 (40代以上の男性) ではなく、20 ~ 30 代女性という新しいターゲット顧客に狙いを定めました。さらに、ターゲット顧客を設定しただけではなく、「ターゲットシーン」 まで明確にしました。ここが興味深いと思いました。
商品名が 「やさしく夜遅カレー」 とあるように、夜に食べるという利用シーンです。名前にターゲットシーンである 「夜遅」 と入るくらい商品コンセプトが明確なので、商品の特徴もブレなくなります。
ターゲット顧客である 20 ~ 30 代の女性は、夜遅くにカレーを食べるにはカロリーが多くて心配な気持ちをどこかに持っているはずです。お腹が空いて食べたいけど夜遅くにカレーを食べるのには罪悪感を感じるかもしれません。
商品名に 「やさしく」 と入っているのもポイントで、こうしたお客の不安な気持ちを払拭する商品になっています。
絞るからお客に刺さる
ここまで 「ターゲット顧客だけではなくターゲットシーンまで絞った」 という内容でした。
買って欲しい人を決め、さらにいつ食べて欲しいかの利用シーンまで明確にすることによって、コンセプト、商品特徴やネーミング、広告や宣伝が一貫性のあるものになります。商品開発やマーケティング、営業と販売までで1つの軸が通るわけです。
売り手の活動や施策に一貫性があると、買い手にはわかりやすく伝わります。具体的にその利用シーンに当てはまる人、今回で言うとカレーを夜遅くに食べたい人には 「自分向けの商品かも」 と思え、商品やメッセージがぐさっと刺さります。
同じような利用シーンに絞っている類似商品が他に売られていなければ、市場では独自性のあるポジションを築けます。
これができるのは、ターゲット顧客だけではなく 「ターゲットシーン」 まで絞り明確にしているからなのです。
ちなみに、今回の 「やさしく夜遅カレー」 と同じようにターゲットシーンまで絞っている商品があります。パッと思いついたのは、アサヒ飲料の缶コーヒー 「ワンダ モーニングショット」 です。朝専用に飲むコーヒーと利用シーンを明確にしています。
最後に
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回はヒット商品に見る、消費者ニーズや商品アイデアを見つける方法をご紹介しました。お客や生活者の利用シーンと、さらに今回の事例のように拡大して見ていけば、商品開発やマーケティングのヒントがたくさんあります。
あなたご自身が普段使ったり食べている物、よく使うサービスの利用シーンも同じです。自分を1人の消費者と見ると、ビジネスチャンスが見つかるはずです。
今週のおすすめ本
ここからは付録のコーナーで、今回は4つです。
今回のレターのキーワードは 「利用シーン」 でした。関連する本のご紹介で、マーケティングでの行動観察の本です。
本のタイトルに 「半径3メートル」 とあるように、この本に書かれているのは、身近な商品やサービスを事例に行動観察とは何か、なぜ有効な方法なのか、具体的にどのように観察をすればいいかです。
ヒット商品の裏には緻密な消費者観察があり、深い顧客理解がされます。その1つの方法が行動観察なので、よかったら読んでみてください。
今週の気になる商品
レター本文でヘビーカーを取り上げたので、もう1つおもしろいアイデアが入ってベビーカーをご紹介します。商品名は 「エアラブ ファン付きひんやりシート」 です (公式サイト) 。
ベビーカーに取り付けるシートで、特徴は冷却ファンが付いています。赤ちゃんの頭部や首、背中、お尻を冷やせる効果があり赤ちゃんが快適に過ごせます。
引用: エアラブ
ベビーカーは地面との距離が近いので、特にアスファルトでは大人の体感温度とベビーカー内の温度は違います。暑い日は熱中症の危険もあり、シートの温度を下げるベビーカーは赤ちゃんにとって良いなと思いました。
今週の YouTube
4つ目の最後の付録コーナーです。
レター本文ではお客や生活者の 「利用シーン」 に、消費者ニーズやお客の不満、課題感をあるという話でした。「自分たちが知りたい答え」 は利用シーンにあります。
この話と関連する動画をご紹介します。今回の内容につながるので、よかったらぜひ見てみてください。
あなたのビジネスアイデアの答えは、顧客の中にある
いただいた質問への回答
前回のレターに質問をいただきました。
使っているノートは少し厚めの50枚の100ページあるものです。フィルタリングのような整理はしていないのですが、時々ノートは過去のものを見返しています。特定の目的があってというよりも、パラパラと立ち読みをするような感じが多いです。
紙のノートに書く意味合いは後から見返すよりも、読んだ内容をもう一度紙に直接書きながらアウトプットして頭の中を整理したり、新しい気づきが生まれることに重きを置いています。
質問をいただきありがとうございました。
質問やリクエストがあれば、こちらの質問箱からぜひ教えてください!
レター作成者
多田 翼
Aqxis 合同会社 代表 (会社概要はこちら)
主な事業
マーケティング, マーケティングリサーチ, 事業戦略などのコンサルティング事業
※ お問い合わせは会社 HP からご連絡ください
経歴
Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立。Aqxis 合同会社を設立し代表に就任。Google 以前はインテージにてマーケティングリサーチ業務に従事。
京都大学大学院 工学研究科 修了。
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